町工場を観光資源として考える理由やオープンファクトリーを開催するまでの経緯、関連する取り組みや将来像などを関係者に聞いた。後編では町工場の視点からみた、おおたオープンファクトリーを紹介する。
東京都大田区で2015年11月28日〜12月5日で開催中の「おおたオープンファクトリー」は、高度な技術を持つ職人たちがその技を見せてくれる、年に1度のイベントだ。コア開催日は土曜で、12月5日には区内3カ所の工場やアパートが開放されるとともに、ツアーも実施される。オープンファクトリーを主催するのは、工和会協同組合、大田観光協会および首都大学東京、横浜国立大学からなる大田オープンファクトリー実行委員会だ。事前準備や各種企画には「ねじまき隊」と呼ばれる大学生や大学院生、町工場の職人たち、大田区民などのボランティアが活躍する。
このイベントは町工場にとって、代替わりが進む中で新たな工場同士の関係が構築できることや、地元住民との交流、ブランディングなどの面で貴重な機会だという。前編では、観光協会と大学にイベントが企画された経緯などを伺った。後編では、町工場から見たオープンファクトリーの意義や実施企画を紹介する。
大田区には現在、町工場が3000社以上ある。1983年に約9000社となったのをピークに年々減少を続けているものの、「蒲田のビルから図面を紙飛行機で飛ばせば、完成品になって返ってくる」といわれる町工場のイメージは健在だ。大田区は製造業の事業所数も従業者数も都内トップで、特に3人以下という小規模な町工場が約半分を占めるという。敷地を広げられないことから大量生産はできないだけに、技術を磨いて生き残ってきた工場が多い。そのため「世界の試作工場」ともいわれ、試作や特注品に強みを持つという特長がある。
大田区には大田工業連合会の下、各地域に12団体がある。工和会協同組合もその中の1つだ。工和会協同組合は特に金属加工業の多い下丸子・矢口地区を基盤としている。
もともと工和会協同組合は「新しいイベントが好き」な集まりだと栄商金属の代表取締役社長で工和会協同組合の副理事長を務める佐山行宏氏は言う。地域ボランティアの活動が元から根付いており、地域で主催するビアパーティーでは町工場の社長たち自らが現場のスタッフとして裏方をこなす。そのノウハウを生かして大田工業連合会としてのロックコンサートを実施したりと、「地域と仲間たちを元気にすることが好き」(佐山氏)な組合だそうだ。
この地域には幹線道路がないため、町工場が立ち並ぶ割には自動車が少なく、道は広めであることから街歩きにはよいと以前から感じていたという。そのため、東急多摩川線沿線で実施された「多摩川アートラインプロジェクト」で声が掛かった時は街歩きをセッティングしたこともあるそうだ。そんな経験があったこともあり同組合に今回のイベントの相談が来たという。特殊な製品をつくる町工場にとっては、来場者に製品を販売したり、B2Bの取引が発生したりといった直接的なメリットはない。だが「受けちゃったの? じゃあしょうがない、やるしかないね」(佐山氏)と言いつつ積極的に取り組んでいったそうだ。
オープンファクトリーでは工場を開放して展示や加工作業の見学、体験をしてもらうのが基本になるが、各種ツアーやトークイベントなどもある。中でも人気なのがカプセルトイ「モノづくりたまご」や加工体験の「仲間回しラリー」だ。
モノづくりたまごは、学生が出したアイデアをもとに職人とのコラボレーションによって作られる製品だ。町工場の技術が詰まった毎年人気の製品だが、これは町工場の職人にとっても良い体験になるそうだ。
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