最新情報を求めて毎年秋に全国の流体解析ユーザーが集まるソフトウェアクレイドルの「ユーザーカンファレンス2015」が開かれた。予測医療にシミュレーション技術を応用する取り組みに関する講演や、既存ツールの新バージョンに加え、間もなく登場する新流体解析ソフトウェア「scFLOW」に関する情報も披露した。
国産解析ツールの雄、ソフトウェアクレイドルとユーザーとの情報交換の場「ユーザーカンファレンス2015」が、2015年10月16日に東京コンファレンスセンター・品川で開催され、サテライト会場の大阪第一ホテル(大阪・梅田)にも中継が行われた。内容も従来のユーザーセッション(2トラック)に加え、同社社員によるテクニカルフォーラムや相談コーナー、展示コーナーが設けられ、詳しく話を聞きたい参加者に応えるものとなった。
特別講演には、日本における医療分野への解析技術応用のパイオニアである東京大学大学院 情報学環/生産技術研究所の大島まり教授が登壇し、人間の血管疾病における血流のシミュレーションの現状について事例を挙げながら話した。本記事では、特別講演の模様とソフトウェアクレイドルの新製品概要セッションを紹介する。
カンファレンスの冒頭には、2015年6月に代表取締役社長に就任した久芳将之氏が登壇した。今回、東京会場は交通の便を考慮して変更されたが、海外からの参加者も含めて2014年よりもおよそ3割多い430人もの申し込みがあったことを紹介。またSTREAMシリーズは2700本、SCRYUシリーズが3200本と売り上げが順調に伸びているとアピールした。この他「SCRYU/Tetra」で培ったノウハウをベースに開発中の、より高速で安定した流体解析ソフトウェア「scFLOW」(詳細は後述)や、2015年12月から使い始めるというソフトウェアクレイドルの新ロゴタイプを披露した。
「予測医療のためのシミュレーションと医用画像の統合システムの開発」と題した大島氏の特別講演では、日本人の死因の多くを占める、心疾患(心筋梗塞など)と脳血管障害(脳梗塞、大動脈瘤破裂など)を合わせた循環器系疾患における取り組みを紹介した。循環器系疾患では、血液の流れが重要な役割を果たしていると分かってきたこと、また血管狭窄を解消するための手術では術後の予測が重要なことなどから、疾患の早期発見/早期治療のためシミュレーションによる病態の早期予測および、治療支援のため、医用計測技術とシミュレーションを融合した新しい予測医療の創出を目指している。
循環器系疾患を引き起こす血管の病変として、大島氏が注目しているのは血管の内側組織が厚くなって血液が流れにくくなる動脈硬化症と、血管に袋状のこぶ(瘤)ができてそれが破裂して出血につながる動脈瘤だ。これら血管の病変には、血液の流れが血管に与える刺激が関係している。この刺激には、血圧による圧刺激、圧刺激によって血管が伸び縮みする伸展刺激、血管壁と血液の摩擦によるずり刺激(壁面せん断応力)の3つがあるが、中でも壁面せん断応力は血圧の100分の1〜1000分の1という小さな力でありながら、最も大きな影響を与えることが分かってきたという。しかも、力が小さ過ぎると血管壁がもろくなり破裂の危険が増し、大きいと血管壁がはがれて血管の閉塞を招く。
ところが体内で実際にどのような力が血管にかかっているかを把握することは非常に難しく、体外から直接観察することはできない。大島研究室では、CTやMRI、SPECTなどの撮影法で得られる医用画像から血管のモデリングデータを作成する独自のソフトウェアを開発し、それを基にSCRYU/Tetraによるコンピュータシミュレーションと組み合わせて、病変部位にかかる力を解析している。
講演では東大病院の脳神経外科との共同研究で、実際の患者の首から上の血管をモデル化して解析した結果を幾つか見せたが、心臓の拍動によって血管壁にかかる力が色分けによって視覚化されており、これによって医者や患者自身が状況を判断することが容易になっているという。実際の研究で、患者に見つかった脳動脈瘤の手術(ある程度のリスクを伴う)をするかどうかの判断材料として、解析結果が使われている例も示された。その例では、2つある動脈瘤のうち、1つは瘤の先端まで血流が届いておらず、破裂の可能性があるとして手術をした。もう1つは流れが届いていることから手術をせず経過観察とし、現在も流れに変化は見られないという。
この他大島研究室では、独自開発ツールとして総延長9万kmに及ぶ全身の血管を、3次元モデル、1次元モデル、0次元モデルを組み合わせたマルチスケールシミュレーションによって解析する研究も進めている。全身の血管を3次元で解析することは非常に難しいが、1次元/0次元モデルを使い境界条件のみで簡素化することによって、3次元では一昼夜から丸2日かかっていた解析時間を、30〜40分程度で終えることを可能にした。これによって、手術の際に患者の個別データを使いながら、術前術後の血流をシミュレーションすることで、手術のプランニングに生かすことができると考えている。
大島氏は、現在のシミュレーションでは現状を詳細に示すことが可能だが、予測に生かしていくことが大きな課題と考えており、血管の形状がどう変わっていくかをモデル化すれば予測できるのではないかと考えているという。「いままで医用画像では、この患者さんにがんがあるとか脳動脈瘤があると判断するだけだった。これにさまざまな医用データとシミュレーションを組み合わせることで、術後予測や病態の予測に生かしていく予定。高度な情報を提供することで、より安心安全な医療に貢献したい」と締めくくった。
特別講演に続いて登壇したソフトウェアクレイドル技術部課長の渡邊則彦氏は、同社ソフトウェア群の新バージョンについて説明した。ソフトウェアクレイドルでは、2015年6月にリリースしたV12リリース(正式リリース版)に続き、同年11月にV13RC1リリース(早期リリース版)、2016年6月にV13RC2リリース、2016年11月にV13リリースを予定している。
STREAM、熱設計PACのV13リリースにおける新機能は、プリプロセッサの分散並列処理の強化と、ソルバーにおけるハイブリッド並列による高速化、自由表面解析機能強化、移動物体解析とMARS法の併用、カットセル機能の発展だ。このうちハイブリッド並列とは、プロセス並列(MPIによる分散並列)とスレッド並列を組み合わせたもので、V12でも一部機能で対応しているが、V13では全面的に対応する。ツールでは、電子基板の熱的部品レイアウト検討ツール「PICLS」をリリース済み。インタラクティブな操作でリアルタイムに基板の温度分布を表示し、作成した基板形状をSTREAMや熱設計PACにエクスポートできるものだ。
SCRYU/TetraのV13リリースでの新機能は、プリプロセッサのスレッド並列化による高速化、インテグラルテクノロジー製の自動メッシュ生成/修正ソフトウェア「FORTUNA」との協調、ソルバーでは質量粒子のVOF値への変換機能、異なるMAT間をまたぐ重合講師の従属領域設定、化学反応計算ソフトウェア「LOGE」との連成だ。LOGEとの連成では、LOGE APIを使い、化学反応データベースファイルを用いた総括化学反応や詳細化学反応解析が可能になる。複数ある化学種の粘性係数や熱伝導率、比熱設定もLOGEのデータベースから情報を取得することで簡単に設定できる。
渡邊氏は最後に久芳氏も冒頭で紹介した新非構造格子系熱流体解析ソフト「scFLOW」を紹介した。scFLOWは、多面体メッシュベースの要素中心型非構造格子有限体積ソルバーを用いた熱流体解析ソフト。SCRYU/Tetraの計算速度と、安定性の向上という2つを狙って開発された。SCRYU/TetraとscFLOWで、ほぼ同じデータ点数で非並列計算における1サイクル当たりの計算速度を比較すると、2倍以上高速化される。またウィザードの強化などユーザビリティとデザインを刷新したプリプロセッサが付属する。
V13RC1リリースでパイロットリリースし、V13リリースで正式リリースの予定だ。RC1リリースでは、SCRYU/Tetraのパッケージに同梱され、ライセンスはSCRYU/Tetraのものを使用できる。RC2リリースからはSCRYU/Tetraとは別パッケージで、ライセンスも個別ライセンスとなるが、SCRYU/Tetraユーザーは無償で使えるとしている。
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提供:株式会社ソフトウェアクレイドル
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2015年12月11日