第19回 熱計測精度の向上から脳血管疾患の手術前シミュレーションまで、有用性が高まる解析技術ソフトウェアクレイドル ユーザーカンファレンス2014

毎年秋に開催され、全国から流体解析ツールユーザーが集まるソフトウェアクレイドルのユーザーカンファレンス。今回は熱流体解析を熱計測技術の向上に生かす事例や、製品開発における熱問題を早期に解決する事例、脳血管疾患の治療において血流をシミュレーションによって解析する事例などが発表された。

» 2014年11月25日 10時00分 公開
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 今年もソフトウェアクレイドルとユーザーの情報交換の場である「ユーザーカンファレンス2014」が、2014年10月17日にセルリアンタワー東急ホテル(東京・渋谷)で開催され、サテライト会場の大阪第一ホテル(大阪・梅田)にも中継された。今回の特別講演には、LEDデスクトップライト「STROKE」やワイヤレス充電器「REST」をたった1人で開発・販売する"ひとり家電メーカー"として知られるビーサイズ代表取締役社長の八木啓太氏が登壇し、自身の経験を基にインターネットサービスを活用した、設計、資金調達、販売に至るまでの新しいモノづくりについて話した。

 一般講演では、名古屋市工業研究所による熱流体解析を熱計測に活用する事例や、オリンパスの製品開発におけるSTREAM活用事例、東京大学医学部附属病院脳神経外科における脳血管疾患の血流シミュレーション事例など、興味深いセッションが行われた。本記事では、これら注目のセッションの内容を紹介する。

熱流体解析で、電子機器の温度測定精度を高める

photo 名古屋市工業研究所システム技術部 梶田欣氏

 「熱計測技術向上に活用する熱流体解析」というタイトルで講演したのは、名古屋市が設置した工業技術に関する試験研究機関である名古屋市工業研究所システム技術部の梶田欣氏。熱設計PACとSCRYU/Tetraを2011年に購入し、電子機器の熱対策に関連して行っている実際の温度計測を補足するために利用しているという。

 梶田氏が挙げたのは、固体材料の熱拡散率を測定する手法であるレーザーフラッシュ法への応用例や、電子部品の熱抵抗の測定および発熱量の測定手法の開発だ。レーザーフラッシュ法は、板状の固体試料をレーザーパルスで加熱し、裏面から熱を測定した結果から、計算式で熱拡散率を算出する。ここでの問題は、瞬間的(Δt≒0)に均一に加熱しているというのが前提になるが、実際のレーザーは分布を持っていて加熱もある程度時間がかかること。レーザーの出力も自由に変えることはできない。また、測定できるのは資料のただ1点のみであり、電気測定の抵抗成分によるホワイトノイズの問題もある。

 これに対して解析ツールでは、理想状態による加熱を設定することや出力の自由な変更、1点にとどまらない全体の温度分布を見ることができる。当然ながら、数値誤差などを除けばホワイトノイズは入らない。逆に意図してノイズを入れることで、ノイズが測定にどういう悪影響を与えているかも評価できるという。「世の中に計測装置は多いが、完璧な装置はない。(解析結果と比較することにより)測定誤差の程度やずれの傾向を知ることができる」(梶田氏)。

 電子部品の過渡熱抵抗測定においては、実測で得られた構造関数は境界が明確でないことが多く、解釈が難しいという問題がある。これには解析モデルを作ってシミュレーションを行い、現実には不可能な、電子部品の特定の物性値を変化させた結果と実測結果を比較することで、構造関数の解釈をより容易にするための補助として利用できる。

 こうした例のように、ノイズがない理想的な条件を設定できることや意図的な外乱(ノイズ)を与えることができるという解析ツールのメリットを生かして、実際の測定結果と合わせて考察・検証することで、計測技術の向上に役立てているという。

製品開発における熱問題を設計初期段階で回避

photo オリンパス ものづくり革新センター 開発ソリューション本部 DEM技術部 CAE技術グループチームリーダー 木村陽一氏

 オリンパス ものづくり革新センター 開発ソリューション本部 DEM技術部 CAE技術グループチームリーダーの木村陽一氏は「製品開発を支援するCAE活用の取組み」と題して、医療機器をはじめとする製品開発において発生する熱問題を、STREAMを用いた設計検討やシミュレーションによって早期に解決しようとする取り組みについて紹介した。木村氏の所属する部署は、シミュレーションの活用によって、医療機器やデジタルカメラなど各事業製品の品質・機能向上や開発効率向上を支援しており、時には開発現場に常駐してコンカレントなサポートも行っている。同社では、形状のモデリングが早くできること、計算や結果の処理も速いことを評価してSTREAMを2006年に本格的に導入し、専用の並列計算機で利用している。

 電子機器は小型化・高機能化が進み発熱密度が非常に高くなっており放熱設計の難易度も年々上昇している。さらに、ファンを使う装置については静音設計を取り入れる必要もある。従来のような試作してから試験をして対策するというプロセスは、開発期間やコスト、要求レベルの高さからいって成り立たない。

 こうした状況に対して、シミュレーションは、モノがない構想段階から、温度分布や空気の流れを開発者に見せることで、最適な放熱構造のための協業を促すことができるという利点がある。「ここに仕切りを入れると流れがよくなり基板も冷えるので設置しませんか?」「基板の後方部は風の流れが弱いので、その発熱部品は風の流れが強いファン近傍に配置しませんか?」といった具体的な提案を、開発の源流から行っている。開発が進んでしまうと不可能になる部品配置の変更も、開発初期であれば可能であり、なるべく開発の源流で"熱設計"を行うことが重要という。

 木村氏は、医療機器に要求される温度に関する規定をクリアするための設計に応用している例を挙げた。機器が壁面に押し付けられ、吸気や排気の効率が下がるような悪条件下でも冷却ができることが要求されるが、以前は複数の押付けパターンに対し実験と対策を行っていた。現在は、シミュレーションを用いることで、出図前に全てのパターンを計算し熱設計を行うことで、試作一発OKを実現している。

 ファンが1つ故障した場合や、また水を使う機器では筐体上面に水がこぼれた場合でも機器の安全性が保たれる、といった規定に対しても、同様にシミュレーションを活用して設計ができている。

 静音設計に関しても、空気の流れを最適化したり、ヒートシンクの放熱効率を最大化したりすることで、最小限の流量で機器を冷却できるようになり、過去の製品に比べ最近の製品では10dB(A)の騒音低減ができたことなどを発表した。

 以上のように、開発源流からシミュレーションを用いることで、要求される品質や機能を満足させつつ、放熱性や静音性を確保できる製品開発が実現できており、開発工数の大幅削減にも貢献できているとのこと。

脳動脈瘤の治療における術前シミュレーションへの適用

photo 東京大学医学部付属病院 脳神経外科 特任講師 庄島正明氏

 「SCRYU/Tetraを血管を流れる血流の解析に使っている、東京大学医学部付属病院脳神経外科特任講師の庄島正明氏の講演は「脳血管疾患における血流動態:直接計測とシミュレーションの役割」。実は、血管の病気の発生や進行に、血流が大きく関与していることが分かってきていて、血流の中でも血管壁をこする力である「ずり応力」が非常に重要な因子であると考えられている。

 血管壁にはシェアストレス(せん断応力)の大きさをある一定の値に維持するシステムがあり、シェアストレスが大きくなれば血管を広げてシェアストレスを下げ、逆に小さくなると血管をすぼめてシェアストレスを上げる仕組みになっている。これが何かの理由でずれることによって血管の病気が発生するのではないかと推測されている。シェアストレスが局所的に高くなり、分布が不均一になったとき、うまく対応できないと血管のこぶである動脈瘤ができたりする。こうした血管の病気に対して、血流を解析することで病気の進行を予測したり治療に役立てることができるという。

 以前はできなかった人体内の血流の計測は、いまでは4D-Flow MRI(核磁気共鳴画像)という手法によって直接計測できるようになっている。しかしMRIで分かるのは現在の状態であって、なぜそうなっているのか、治療によってどう変化するかは知ることができない。ここに流体解析の重要な役割があると庄島氏はいう。例えば動脈瘤の治療においては、入り口をふさいで血液が入らなくしたり、詰め物をしたり、ステントと呼ばれる金属製の網目の筒を入れたりするが、必ずしも良くならず病状が悪化することがある。こうしたときに流体解析をすることによって、シェアストレスの分布を可視化することで、原因の推測に役立てられている。また、血流を変えるような手術をする前に、術後の血流をシミュレーションすることで、どのような手術が良い結果をもたらすのかを推測することができるようになった。

 「血管の病気が発生し、進行していく過程で血流は大きな要素。血流を測定するにはMRIを使うのがよいが、血管の病気が起こるメカニズムの解明や、これから増えると予想される血流を変える手術の計画する際には、流体解析によるシミュレーションが重要な役割を果たす」(庄島氏)。

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提供:株式会社ソフトウェアクレイドル
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2014年12月31日

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