日立GEニュークリア・エナジーは、MSC Nastranのイベントで原子炉施設における3次元FEM耐震解析の検討手法について発表した。連成を前提とした水のモデル化方法の検討、および構造物全体の統合減衰モデルの検討である。
2015年10月6日に開催されたイベント「MSC Nastran Technology & Solution Day 2015」(エムエスシーソフトウェア主催)において、日立GEニュークリア・エナジー 原子力計画部 耐震計画グループ 技師の鬼塚翔平氏が登壇し、「3次元FEMによる原子炉施設の耐震解析法の開発」について講演した。
日立GEニュークリア・エナジー(以下日立GE)は、「プラント統合CAEシステム」と名付けて、基本設計から詳細設計、製作、据え付け、保守点検まで、さまざまな場面においてCAEを活用している。例えばプラント内の配管や熱交換器をはじめとする設備の配置をCAD上で検討したり、保守点検のシミュレーションなどを行ったりしているという。今回は、設備全体の耐震安全性をより向上させるために、3次元FEMを適用するための検討事例を紹介した。
鬼塚氏は、3次元FEMを耐震設計に適用する際の課題について、大きく4つを挙げた(図1)。
まず第1の問題が、構造全体をどのようにモデル化するかだ。第2に、原子炉内やサプレッションプール(非常時に原子炉からの蒸気を逃がす)に存在する大容量の水のモデル化の方法である。第3がそれぞれ減衰特性の違う構造物を統合して解析するために、減衰をどうモデル化するかだ。最後が得られた解析結果をどう効率的に耐震設計に活用していくかである。今回は、サプレッションプール内の水のモデル化と、建屋全体の減衰モデルの決定方法について検討した結果を紹介した。
サプレッションプール周辺の構造は、改良沸騰水型原子炉(ABWR)では、格納容器の中に原子炉とサプレッションプールが入っており、サプレッションプールは原子炉の下側を囲うドーナツ状の形になっている。原子炉を支える基礎と格納容器は、サプレッションプールの水を介して力が伝わる構造となっている。そのため耐震解析をする場合は、原子炉本体基礎、格納容器とプールの水の連成による検討をすることになる。この条件の上で、耐震解析における適切な水のモデル化方法を検討した。
汎用の構造解析と流体解析の連成を耐震解析に使うと、膨大な時間がかかる。設計条件として用いているのは100秒ほどの地震で、詳細に解析することは難しいという。一方、MSC Nastranの仮想流体質量法のMFLUIDであれば、計算時間をある程度短縮できるという。そこで、鬼塚氏はMFLUIDによる流体モデルの有効性を、振動試験と比較して確認した。
振動試験では、サプレッションプールを模擬した二重円筒容器を用い、加振中の壁面に及ぼす圧力と、水面の振幅を計測した(図2)。
容器はアクリル製で、実際の50分の1スケールとした。壁面の圧力については、8カ所に圧力計を配置し、水の振幅はレーザー変位計で計測した。
振動試験は2種類を実施した。1つがインパルス加振試験で、急激な加速度を入力して、共振振動数と減衰比の測定を行った。もう1つは正弦波および地震波の加振試験を行った。正弦波については、流体の一次共振振動数である0.8Hzを使用した。地震波については、実際に原子力発電所の敷地内で記録された2011年4月の地震の観測記録を代表例として使用した。
実際のプールと試験用模型のサイズは異なるため、入力波の卓越振動数と流体の共振周波数の比率が一致するように、加速度時刻歴の時間数を圧縮するスケール則を適用した。これにより地震の長さは約100秒から20秒へと圧縮されている。
試験結果は、インパルス加振試験では減衰比が0.5〜0.7%だった。正弦波では水が左右に揺れる、スロッシングと呼ばれる現象が観察された。共振正弦波入力の場合は、流体の運動が顕著に出てくる。実際の地震波を入力波とした場合は、水面はほぼ揺れなかった。共振周波数の正弦波に近い成分があまりなかったため、ほぼ液面に波が立たず、剛体のような挙動が見られた。
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