個人でモノづくりを楽しんでいる皆さんの中には、「自分の作品を売ってみたい」と考える方もいるはずだ。しかし「売る」となると、何に注意したらいいのか全く分からない……。そんなときに知っておきたい「法律」の基本について、シティライツ法律事務所の水野祐弁護士に伺った。
個人のモノづくりが当たり前になりつつある昨今。「rinkak」や「DMM.make」など、3Dデータを登録するだけで販売できるサービスも登場し、ただモノを作るだけではなく「販売したい」と思う人が増えている。
しかし、モノを販売するに当たって気掛かりなのは「法律」の問題だ。例えば、オリジナルキャラクターを3Dプリンタで出力し、販売しようと思った場合、「実は似ている作品があって訴えられるのではないか」「販売した後に模倣されたらどうしよう」など、漠然とした不安が浮かんでくる。ただ、そうは言っても具体的に一体何に注意を払えばいいのか分からない……。
今回はそんな不安を晴らすべく、「作ったモノを販売するときに注意すること」についてシティライツ法律事務所の水野祐弁護士に話を聞いた。水野氏はCreative Commons Japanでも理事を務め、FabLab Japan Networkにも所属している。知的財産権を専門に活動する弁護士だ。
※注)本稿は2015年11月時点の取材内容を基に記事化しているため情報が古い可能性がございます。恐れ入りますが、最新の情報は特許庁のWebサイトなどからご確認ください。
「モノを販売するに当たって、主に注意すべきは『著作権』『意匠権』『製造物責任法』の3つです。現行法では、販売する人が“個人”か“企業”かなどの線引きはなく、同じ法律で整備されています」(水野氏)。
この3つの概略と、モノづくりにおける対策を理解すると、販売に当たってのリスクはぐっと減らせるという。以降で押さえるべきポイントを見ていこう。
著作権とは、テキストやスケッチ、音声、映像、ソフトウェア(プログラム)など、「文化的な創作物」を保護している権利だ。著作権の特徴は、「誰かが作品を生み出した瞬間」に発生するということ。特許庁などへ登録は必要ない。モノづくりで言えば、「3Dデータ」「図面」などがこれに当たる。
「著作権は生み出した瞬間に発生する権利なので、“偶然の一致・類似”は大いにあり得るとされています。故意に似たものを作成したのでなければ、似ていても侵害には当たりません。自らに思い当たることがない場合、特に調査する必要もありません」(水野氏)。
たとえ、似たようなデザインになり、先に生み出した作者に著作権侵害を問われた場合でも、申告した作者側が「意図的に侵害された」という証明を行わなくてはならない。そうした偶然の一致を認めているのが著作権だ。
著作権とは異なり、特許庁に申請し登録することで初めて発生するのが「意匠権」だ。意匠権は、ハードウェアやプロダクトの“外観デザイン”を守る権利。モノづくりで言えば、3Dプリンタの出力物がこれに当たる。
「ペットボトルやコップ、カメラなど、“機能的”なモノは『実用品』として分類され、これら実用品の外観デザインは、著作権ではなく、意匠権登録をして初めて保護されるというのが原則です。オリジナルのデザインだと考えて製作し販売した実用品だとしても、意匠権登録が行われていた場合は、その意匠権の侵害に当たってしまう可能性があるので注意が必要です」(水野氏)。
令和元年意匠法改正に伴い、現在、意匠権の満了日は「出願日から25年経過した日まで」となっています。なお、本稿は2015年11月時点の取材内容を基に記事化しているため情報が古い可能性がございます。恐れ入りますが、最新の情報は特許庁のWebサイトなどからご確認ください。
意匠権登録がされているか否かについては、Webサイト上で確認できる。具体的な対策については記事の後半で紹介したい。
製作したモノを使用中、壊れたり事故が起きたりした場合を想定し、製造物に関する責任を定めているのが「製造物責任法」だ。責任を問われる立場として「製造業者等」と定められているが、個人でも、反復継続してモノを作っている場合はこの「製造業者等」に該当する。
「企業だけでなく個人でもモノを反復継続して製造すれば製造物責任法の対象となります。これはモノを製造する場合だけでなく、加工や輸入を行う場合などにも適用されるので注意が必要です」(水野氏)。
製造物責任法は、立場的に「強い」製造業者と「弱い」消費者の格差を是正することを目的に1995年に施行された法律だ。しかし、個人によるモノづくりが普及し、モノづくりや消費の在り方が多様化している中、製造物責任が一律に個人にも適用されることに関しては、「今後のモノづくりの発展を阻害する可能性がある」とし、今後さらなる議論の集積が期待されているという。
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