三木社長が事業継承した時、取引先は4〜5社だったが、今では50社を超えた。それも一部上場企業がほとんどだ。研究部門から直接に問い合わせが来るため、技術者同士の実直な話し合いができる。初めての電話で意気投合して、担当者がすぐに来社して契約に至ったケースもあるという。
今の市場環境の中で町工場が価格競争を挑めば、消耗してしまうことも多い。三木製作所は価格を安くして多くの人へのアプローチを目指すのではなく、技術を磨いて他社ができないことを実現できるようにしてきた。すると顧客から喜んでもらえるだけでなく、適正な価格で取引を成立させられるというメリットもあるのだ。
「バブル崩壊で苦労したことは忘れていない」と語る三木社長だが、今でも営業は苦手だという。自分から売り込みに行くことはない。企業とは機密保持契約を結んでいるから、どこの会社のどんな製品に自社の技術が使われているのか、アピールもしない。それでも、新規顧客は年4〜5社のペースで増えている。従来の顧客から別の部署を紹介してもらえるケースもあるという。三木社長はこれを“顧客の自己増殖"と呼んでいる。
企業の研究部門は新技術に対してアンテナを張り巡らしているから、いい仕事をしていれば業界内のウワサになる。ウワサを聞いた技術者が、同社のサイトを見て問い合わせをしてくるというのが、新規顧客獲得のパターンとなっているそうだ。
こうして三木製作所はかつての課題だった特定の業界に依存してしまう体質から抜け出した。今では建材は売り上げ全体の4割程度にまで減り、その分金属素材メーカー、フィルムメーカー、製紙、セラミック、電気と幅広い業種の金型を扱うようになったという。
売り上げの中心が自動車部品関係だった頃は、モーターショーが開催される1年前が金型発注のピークだった。住宅建材の場合は、春と秋に展示会があるため、その半年前が繁忙期になる。このように特定の業界に売り上げを依存していたときは、受注の波も大きかった。しかし今は取引先の業種が多様化したおかげで、年間を通じて仕事が入ってくる状況になり、業績は安定して伸びているという。
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