経営難から大逆転! 独自の精密加工で新分野を開拓した金型メーカーイノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(3)(4/7 ページ)

» 2015年10月30日 08時30分 公開
[松永弥生MONOist]

その加工精度はアート作品にも生きる

 三木製作所が手に入れた3次元微細加工の技術は思わぬ作品を生んだ。2002年に国立科学博物館からの依頼で、ジュラルミン製の立体日本地図を製作したのだ。国土地理院のデータを使った精密な立体地図製作は難易度の高い仕事だったが、三木製作所の微細加工技術の精度を広くアピールできたという。

 これがきっかけとなり、宇宙飛行士の毛利衛氏がスペースシャトルから地球上の全ての大陸をデータ化したNASAのデータを使用して、2m×1.25mの世界地図も製作。その他にベンチャー企業からの依頼で9m×3.6mの日本地図の製作も行った。技術を極めることで、通常は人目に触れることがない金型技術をアート作品としても生かしたのだ。

三木製作所が手掛けた「火山と温泉の分布」。国立科学博物館 日本館に展示されている(クリックで拡大)

大手メーカーからの依頼が舞い込む

 金型の製作は高額であり、その質が製品の質も左右する。顧客が依頼先を慎重に選ぶのは当然だ。そこで三木製作所は新たな仕事を受注しはじめた頃、新規顧客へのアプローチを図るためにWebサイトのリニューアルを行った。試作料金や試作例をWebサイト上に掲載することで、新規顧客がオーダーしやすいようにした。

 こうした新規顧客への気遣いが今までになかった新たな案件を呼び込んだ。事例紹介を見て、「これができるのなら、こんなこともできないか?」と大手メーカーの研究部署に所属する技術者から問い合わせがくるようになったのだ。

 こうしたメーカーの新製品開発案件の場合、誰も実現したことがない技術を求められることも多い。だが三木社長は、未経験の案件、難しい案件も断らない。こうした依頼が舞い込むようになった当初は「できるかどうか分かりません。できなかったら、お金はいりません」と伝えた上で引き受けたこともあるという。しかし現在の三木社長は「難しいと思った要求でも、やればできるんですよ。だって、できるまでやるんですから」と笑顔を見せる。

 初めてのことにチャレンジするわけだから、当然、上手く行かないこともある。しかし三木製作所ではできなかったからといって、その担当者を責めることはない。失敗はノウハウの蓄積につながるからだ。もちろん失敗続きではモチベーションが下がってしまう。小さな成功体験を積み重ねて自信をつけていくことも大切だ。

 こうして少しずつ「でき癖」をつけていくことで、三木製作所は仕事の幅を広げてきた。

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