携帯電話開発の歴史に見る、「すり合わせ」から「組み合わせ」へのシフト組み込み機器開発入門(3)(1/2 ページ)

今回はスマートフォンへとシフトした携帯電話を例に、「すり合わせ」から「組み合わせ」と変化した組み込み開発の手法の変化と、今後求められる要件について考えます。

» 2015年09月14日 07時00分 公開
[EIPC事務局MONOist]

 この連載ではこれから組み込み機器開発に携わる技術者・エンジニアを目指す方を対象に、組み込み機器開発の入門編として知っておくべき内容を広く説明します。第1回では「組み込み機器とは」、第2回ではBDレコーダーを例として「組み込みシステム開発」について説明しました。

 第3回となる今回は、組み込み機器のシステム開発がどのように変わってきたのか、これまでの流れについて説明し、そして今後求められる組み込みシステム開発とはどのようなものかを考えてみます。

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組み込み機器の変化

 さて、組み込み機器の開発はどのように変わってきたのでしょうか。

 組み込み機器は、マルチメディア系ではテレビ、デジタルカメラなど、医療系では体温計などさまざまなものがあります。組み込み機器の一例として、携帯電話に関するこれまでの変化を見てみましょう。

「ワイヤレスジャパン2007」のパナソニック モバイルブースに展示されていたショルダーフォン「TZ-802A」(左)とNTT向け国内携帯電話1号機「TZ-802」(右) 「ワイヤレスジャパン2007」のパナソニック モバイルブースに展示されていたショルダーフォン「TZ-802A」(左)とNTT向け国内携帯電話1号機「TZ-802」(右)

 日本において携帯電話は1980年代、自動車搭載の電話に端を発して誕生し、当初は「自動車電話」とも呼ばれていました。1985年にNTTが肩に掛けて持ち運べる「ショルダーフォン」を発売しましたが、機能としては電話をかける・受けるだけでした。2〜3年に1回の販売サイクルで新製品が発売されましたが、とても高価でしたのであまり一般には普及しませんでした。

 1990年代に入ると携帯電話本体の小型化が進み、肩掛けタイプからポケットサイズへと変わっていきました。さらに、電話機能に加えて、メールやWebの閲覧など簡単なデータ通信が行えるようになりました。新製品の投入サイクルも最盛期は年2回と短くなり、低価格化が進み、社会人はもちろん大学生へも普及していきました。

 スマートフォンと呼ばれるようになった近年では、ポケットに入るサイズは変わらないものの大画面化が進み、より使いやすく、PCと同等レベルの機能を利用できるようになっています。製品バリエーションも増え低価格製品も登場し、小学生からお年寄りまで幅広い世代に普及しています。

 このように携帯電話は、小型化、機能の高度化・多様化、製品販売サイクルの短期化、低価格化が進んでいます。これは、組み込み機器全体の流れともいえます。

「すり合わせ開発」から「組み合わせ開発」へ

 組み込み機器の変化に合わせて、組み込みシステム開発も当然ながら変化を遂げています。

 自動車電話は通話機能のみでしたので、開発する組み込みシステムも通話機能のみと規模が小さく、新製品の登場時にはシステム全部を一から設計/開発していました。この、システム全部を一から設計し作り、細かい部分をすり合わせ、微調整しながら開発を行っていく「すり合わせ開発」の手法がこの頃の組み込みシステム開発では主流でした。

 携帯電話の開発では、メール機能、携帯電話専用のWeb閲覧機能などが導入された1990年頃までこの「すり合わせ開発」で行われていました。当時は春と秋の年2回の製品発売が当たり前になっており、発売へ間に合わせるため、技術者は血と汗と涙で開発を行っていました。この頃、私も実際に携帯電話開発に携わったことがありますが、徹夜、寝不足は当たり前で、睡魔と闘う状態の中、根気だけでプログラミングをしていたことを覚えています。

高機能化したスマートフォンの時代に、開発手法は「すりあわせ」から、「組み合わせ」に変化する 高機能化したスマートフォンの時代に、開発手法は「すりあわせ」から、「組み合わせ」に変化する

 この後、携帯電話はスマートフォンに移り変わっていき、爆発的な機能の高度化・多様化が始まります。この頃になると、システム全部を一から作り上げるすり合わせ開発は限界を迎えます。代わって主流となった組み込みシステムの開発手法が「組み合わせ開発」です。

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