「ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【後編】」では、多次元の全体最適化を紹介したが、今回の実践戦略では多次元の全体最適化を実現するためのリファレンスアーキテクチャモデルも「Reference Architecture Model Industrie 4.0(RAMI4.0)」という略称とともに公開している(図3)。
立方体の鉛直方向は、EUのスマートグリッドアーキテクチャモデル(SGAM)を踏襲したバリューネットワーク全体の「論理的なレイヤー構成」を示している。最上位の「ビジネス層」は最も抽象度の高い層で、ビジネスモデルそのものを規定し、法規制などへの対応もこの層で議論する。「機能層」はビジネスを機能分解した構成要素を規定し、例えばERPシステムなどのツール類はここに含まれる。「情報層」ではデータモデル、「通信層」では通信プロトコルなどが規定され、SGAMには無かった「インテグレーション層」と「アセット層」がRAMI 4.0では新しく追加され、それぞれ作業者とのインタフェースであるヒューマンマシンインタフェース(HMI)や、実体がある部品やワークなどを規定する。この軸では異なるレイヤーでのデータ共有方法が鍵だ。
RAMI 4.0では使える標準規格はできるだけそのまま活用することを意図している。例えば「通信層」では「IEC 62541: OPC-UA」が決め打ちで推奨となっている他、「情報層」ではIEC Common Data Dictionary (IEC 61360シリーズ / ISO13584-42)やeCl@ss、Electronic Device Description(EDD)、Field Device Tool(FDT)が参照すべき規格として掲げられている。「インテグレーション層」ではField Device Integration(FDI)も入っており、その他ではAutomationMLやProSTEP iViPなどの名が、首尾一貫としたエンジニアリングサイクルを実現するために検討すべき手段として挙げられた。
立方体の右辺は生産システム全体の「物理的なレイヤー構成」で、オートメーションピラミッド(参考画像)として見かけることも多いIEC 62264と、バッチ制御システムの標準であるIEC 61512を参照している。工場現場の垂直統合がこの軸の課題だ。
立方体の左辺はバリューネットワークの「時間軸」に沿った製品などのライフサイクルを示している。これはIEC 62890をそのまま踏襲し、開発と生産をそれぞれ「タイプ」「インスタンス」と分けてモデル化する。いわゆるPLMの管轄を表すのがこの軸だ。
論理的なレイヤーが「サイバー」なら、物理的なレイヤーが「フィジカル」であり、これが時間軸に沿って動作する「システム」が広義の「サイバー・フィジカル・システム:CPS」というわけだ。ファクトリーオートメーションもプロセスオートメーションも合わせてモデル化しようとするこの大風呂敷は「網羅的」と言えば聞こえはいいが、さまざまな標準規格の「てんこ盛り」という表現の方が実態に近いかもしれない。これらを全て整理して規格化し、現場に浸透させていくのに20年かかるというのは、確かに頷ける話だ。
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