ゲームのバグには「良いバグ」もあり、仕様となったり名物になったりすることもあります。ただ「悪いバグ」があることも事実で、筆者の研究室ではこれを分類することにしました。「悪いバグ」のケーススタディです。
これまで3回に渡り、組み込み系の代表格であるゲームのバグについて取り上げてきました。ゲームのソフトウェア開発では、バグがあっても人の生死に関わることがないため、ゲームのバグには「悪いバグ」と「良いバグ」があり、「良いバグ」は次のバージョンで「仕様」に昇格したり、「ゲームの顔」になったりします。
ゲームの品質制御では、バグが生命や財産に大影響を及ぼす可能性が少ないため、自動車のコントロールやミサイル制御のソフトウェア開発と同じ発想はないという話をしました。
今回は、筆者の研究室で行っているゲームソフトウェア品質の研究について紹介し、ゲーム業界の品質状況の現状について皆さんと一緒に考えたいと思います。
筆者の研究室では、ゲーム開発会社が公開しているのWebサイト上の不具合情報を収集、分類、集計する研究を実施しています。この研究を始めるきっかけとして、ゲーム人口が昔と比べて爆発的に増えているにもかかわらず、ゲーム系の研究があまり進んでいないと感じたためです。
筆者は長年ソフトウェア工学の研究に従事し、さまざまなカンファレンスに行きましたが、ゲーム関連の発表はほとんど目にしたことはなく、ゲーム系の研究は広く共有されていないと考えています。例えば、IEEEやACMに代表されるソフトウェア工学系の最上位のカンファレンスに、ゲーム系論文が掲載されることはほとんどありません(あることはありますが……)[*1]。
[1]ソフトウェア工学のシリアスな研究機関や、大学の有名な研究室でも、看板テーマとして「ゲームの品質」を掲げているところはありません。それどころか、ゲームの品質をテーマにすると、他の研究者から白い目で見られたり、陰で批判されたりします。筆者は、いわゆる「ソフトウェア工学」には、ゲーム系の開発が除外されていたり、あるいは、ゲーム業界では独自の「ソフトウェア工学」が発達しているような印象を受けます。
筆者が大学生の頃、今とは全く異なり、コンピュータやソフトウェアはまだまだ日陰の存在でした。3年生の頃、卒業研究室の紹介の時に、ある研究室の先生が「ウチは、きちんと研究してもらいます。コンピュータで適当に処理して終わりなんてことはしませんよ」とコンピュータに敵意120%剥き出しだったことが印象的でした。今、ゲーム界はこれと同じ受難期を迎えているような気がします。
筆者は、以下の3つの手順に従って、ゲーム系ソフトウェアの品質の調査を実施しました。
まず、ゲーム系ソフトウェア開発企業のWebサイトに掲載されている不具合情報やアップデートの報告時のバグ報告を収集しました。不具合に着目したため、アップデート時、頻繁に行われる「ゲーム・バランスの調整」は除外しました。ただし、文面上、不具合と認められるものバグとして収集しました。
次に不具合情報を精査し、分類しました。ただし、ジャンルが異なるゲームについても同時にデータを集めたので、多少無理をして分類しました。例えば、レーシングゲームとRPGではバグの種類が大きく異なる場合がありました。
最後に、分類したバグを集計しました。
調査結果を図.1に示します。
上記のデータを見る際、いくつか注意していただきたいことがあります。
ゲームには、RPG、アクション、ボードゲームなど多くのジャンルがあります。ジャンルによっては、大ざっぱに振り分けています。
普遍的なバグの分類法を考えるのは非常に難しく、割り切らざるを得ません。人によっては、全く違う分類をする可能性があります。また、バグによっては、どちらのカテゴリーに分類をすればよいか曖昧なものもあり、それでも、どちらか片方に分類せざる得ない場合がありました。
以上の理由から、ここに挙げたデータは、ケーススタディの1つとしてご覧いただければと思います。
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