情報通信研究機構(NICT)は東京都内で記者向け説明会を開き、フェーズドアレイシステムを利用した気象レーダーの研究開発について説明。また内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」への同研究の展開内容や、今後の研究開発計画も紹介した。
情報通信研究機構(NICT)は2015年1月28日、東京都内で記者向け説明会を開き、電磁波計測研究所 センシングシステム研究室 室長の高橋暢宏氏がフェーズドアレイシステムを利用した気象レーダーの研究開発について説明した。また同氏は、内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」への同研究の展開内容や、今後の研究開発計画も紹介した。2020年をめどに、ゲリラ豪雨などの自然災害を事前に予測できるシステムの実用化をめざすという。
近年、日本国内でゲリラ豪雨や竜巻の発生による事故や災害の発生が社会問題となっている。こうした突発的な猛威をふるうゲリラ豪雨や竜巻を引き起こす要因となっているのが積乱雲だ。現在も気象レーダーによる積乱雲の観測は行われているが、高橋氏は「現在利用されている気象レーダーでは、盛衰が激しい積乱雲の発達過程を高速で3次元測定することは難しい。このことがゲリラ豪雨や竜巻の早期予測への障壁となっている」と説明する。
そこでNICTは、東芝や大阪大学と共同でフェーズドアレイレーダーを利用した気象レーダーの開発を行った。フェーズドアレイレーダーとは、トランスデューサ(信号変換器)となるアンテナ素子を平面上に複数配置するもので、機械的な機構を使わずに電子制御によって広範囲に物体を検知する「電子走査」が可能になるという特徴を持つ。
現在、国土交通省が日本国内に38基設置している気象レーダー「XRAIN」は、測定する仰角方向に向けてパラボナアンテナを機械的回転させている。回転速度は1周あたり20秒で、1分ごとに3仰角が測定できる計算になるという。一方、NICTらが開発したフェーズドアレイ気象レーダーは、電子走査による高速かつ広範囲の3次元測定によって約30秒で100仰角の観測を可能としており、XRAINと比較して大幅に3次元測定の時間を短縮することに成功している。
NICTらが開発したフェーズドアレイ気象レーダーは、約3cmの波長で積乱雲内部の雨粒を計測している。つまり、積乱雲そのものの盛衰過程を捉えているわけではない。約3cmの波長では、積乱雲を生成している雨粒よりさらに小さい水蒸気などを計測することは難しいからだ。そこでNICTらは、マイクロ波放射計やドップラーライダー(LIDAR:レーザーレーダー)とフェーズドアレイ気象レーダーを組み合わせ、雲の発生から降雨までの一連の過程を観測するシステムの開発に取り組んでいるという。
同システムでは、ドップラーライダーから発射したレーザー光が、大気中のちりや微粒子(エアロゾル)により反射光となり往復する時間を基に風速を計測。さらにマイクロ波放射系で水蒸気の鉛直分布の測定を行い、風速と水蒸気の鉛直分布という2つの情報を利用することで、雲の発生を予測する。雲が生成された後は、フェーズドアレイ気象レーダーで雨粒の3次元測定を行う。これにより、雲の発生から降雨まで切れ目ない観測が可能になり、ゲリラ豪雨などのより高精度な事前予測が可能になるという。
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