軍用機にもオープン開発の波、標準化が加速する航空・宇宙/防衛分野組み込み開発ニュース

組み込みシステムが利用される分野の中で、最も要求レベルが高い分野のひとつが、「航空・宇宙」と「防衛(軍事)」だ。従来は安全性、機密性の観点から個別の作り込みがなされてきたが、近年では軍用機の世界にもオープン開発の波が押し寄せている。

» 2014年09月02日 11時00分 公開
[渡邊宏,MONOist]
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 組み込みシステムが利用される分野の中で最も要求レベルが高い分野のひとつが、「航空・宇宙/防衛(軍事)」だ。旅客機や人工衛星、軍用機といった搭載例を提示するだけでなぜ要求レベルが高いか想像できるが、機密性の高い分野でもあり、具体的にどのようなレベルで開発や運用が行われているのかを知る機会は少ない。

 組み込みソフトウェアベンダーとして長年、航空・宇宙/防衛分野に関わってきた企業の1つがウインドリバーだ。同社が2014年8月28日に主催した「第6回 航空宇宙防衛マーケット向け技術セミナー」に登壇した、WindRiverでA&Dビジネス・ディベロップメント シニア・ディレクターを務めるChip Downing(チップ・ダウニング)氏の講演から、同分野における組み込みシステムの最新動向について紹介する。

photo 登壇した米Wind River A&Dビジネス・ディベロップメント シニア・ディレクターのChip Downing(チップ・ダウニング)氏

 航空・宇宙/防衛分野、とりわけ航空分野ではその特性から、それぞれ個別で作り込まれた(カスタマイズされた)機器が搭載されてきた。こうして個別に作り込まれた部品が複数搭載され、それらは「LRU(Line Replaceable Units/列線交換可能ユニット)」と呼ばれるサブシステムとして相互連携される方式で機体に実装されていた。いわゆる「連携型システム(Federated System)」である。

 だが、高度化するシステムや環境への配慮、自動化への対応、低コスト化への要望などが課題として浮上した1990年代半ばより、この手法が限界を迎える。その結果、標準化や統合整理、COTS(Commercial Off-The-Shelf:複数の汎用パッケージの組み合わせ)といった手法が検討、採用されるようになり、ボーイング社の旅客機「ボーイング777」(1995年運用開始)では全てのデバイスを1つのプラットフォームとして統合して開発するという手法が採用された。

 この航空機開発における統合開発アプローチは「IMA(Integrated Modular Avionics/統合化アビオニクス)」と呼ばれる。標準的な1つのハードウェア上に、複数の機能(複数のLRU)を統合し、システムを構築する設計思想と言い換えることもできる。専用品を組み合わせていく従来の手法に比べ、汎用的な共通のプラットフォーム(ハードウェア/OS)を使用するため、重量やコストを低減できる他、安全認証の取得にかかる時間を短縮できるメリットもある。IMAの普及発展は飛行機の高度化にも大きく寄与しており、ダウニング氏によれば米軍の試作機「X-47B」のような無人機の実現にも大きな貢献を果たしたという。

photo 航空機開発設計におけるFederated SystemとIMA。IMAでは航空機向けRTOS「ARINC 653」をプラットフォームとして使用する

 そして2010年代に入り、航空・宇宙/防衛分野にもIoTの波が押し寄せている。「他社(他機)が保有しているデータをインターネット経由で受け取り、信頼性を検証した後に取り入れるといったネットワークとインテリジェンス、そしてセキュリティの両立が求められている。ただ、これらと同時にコストへの配慮も求められる」(ダウニング氏)。

photo A&D(Aerospace&Defense 航空宇宙&防衛)分野における開発製造手法のトレンド変化。2010年代にはグローバルなネットワーク接続性とインテリジェントシステムが注目されている

 そこで新たな動きとしてダウニング氏は「FACE(Future Airborne Capability Environment)」を紹介した。FACEは米国の航空・宇宙/防衛分野の関連企業ならび政府機関で組織されているコンソーシアムで、Federated SystemからIMAへと設計思想が移行していく中、その思想をさらに進めて、オープンなソフトウェアとハードウェアで前述のようなさまざまな要求に応える製品を設計開発していくという意図を持つ。

 FACEでは当初、オープンなハードウェアとソフトウェアを利用するAndroidもベースとして検討したが、ミドルウェアやOSでさえも完全なオープンでなければ意図する開発は行えないという結論に達したという。そこでPOSIX仕様準拠OSをベースにした4つのOSプロファイル(General、Safety Extended、Safety Base、Security)を規定、そこにARINC(aeronautical radio incorporation)やIETF(Internet Engineering Task Force)など各種標準化団体の策定した規格を実装することを提唱している。

photo 軍用製品の世界にもオープン開発の波が押し寄せている。FACEではハードウェア、OS、ミドルウェア、アプリケーションの全てをオープン規格で構成しようと提案している

 既に提案に沿った製品開発の計画も進行しており、米軍のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)や次世代妨害電波発信機、ヘリコプターの無線ディスプレイユニット、さらには航空機の改修計画についても、提唱する設計思想による開発が提案されている。FACEは現在のところ、米国企業ないし米国籍を持つものが代表を務める企業のみが参加できるが、ダウニング氏によれば、この規制については緩和の方向で検討が進められているという。

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