ブレストには、アイデアをどんどん出すための以下の4つのルールがあることを前回の記事で解説しました。
しかし、ブレストの現場では、なかなかアイデアが出てこなかったり、出たとしても特定の人からアイデアがほとんどで、発言する人としない人が極端に分かれてしまうことがあります。「批判しない」というルールがあるものの「自分のアイデアを周囲がどう評価するか」が気になってしまい、思い切ったアイデアを口に出すことを躊躇(ちゅうちょ)してしまう人が多いのです。
そんなときに役立つアイデア発想法が「635法」です。635法は、アイデアを紙に書き出していく手法です。そのため、アイデアを口に出すことが苦手な人の心理的な負担を減らしながらアイデア創造を行うことができます。
635法は、旧西ドイツの経営コンサルタントのホリゲル氏がドイツ人向けに開発した発想法といわれています。以下の3つが基本的なルールで(これらの数字をとって635法と呼ばれています)、30分間で108のアイデアを生み出すことができます。声を出して陽気にやらなくても済む点が、ドイツ人の国民性に合っていたといわれています。どちらかというと、シャイで自己主張が苦手な日本人にも向いている発想法といえるでしょう。
635法の進め方は以下のようになります。
主催者は、図1のような3×6合計18のマス目がある「シート」を準備します。サイズはA4サイズがよいでしょう。テーマの部分は空白にしておいて、主催者が発表するテーマを参加者が自分で記入してもらうようにします。自ら記入することでテーマへの意識づけを強化できるからです。
テーマは、ブレストと同じようにできるだけ具体的に設定することがポイントです。「職場を活性化させるには」といったテーマでは抽象的過ぎるため「若手社員とベテラン社員が協力できるようにするには」といったように具体的に絞り込むようにします。
第1ラウンドは5分間で、各メンバーがシートの1列目にアイデアを3つ記入していきます。5分たったらシートを左隣の人に回します。第2ラウンドは右隣の人から受け取ったシートの2列目に自分のアイデアを3つ記入します。これを6列目のマス目が埋まるまで繰り返し、終了となります。
635法のメリットは、なんといっても30分という短時間で108のアイデアが生み出せるということです。積極的に発言できるメンバーが多い場合は、ブレストでも30分で同じくらいのアイデアが出せると思いますが、635法は、発言が苦手なメンバーが多くてもアイデアの量を確保できます。加えて635法には「メンバーが平等にアイデアを発想できる」というメリットがあります。たとえ、アイデアがたくさん出たとしても、それが全部同じ人のアイデアであったら、多様な視点からのアイデアであるとはいえません。635法では、メンバー全員に発想時間が平等に与えられますので、異なった視点からのアイデアを集めることができます。
635法を発展させた手法として「ブレインライティング」があります。基本的は考え方や進め方は同じですが、635法との違いは「タネとなるアイデアを参加メンバー全員で育てる」という点です。ブレインライティングの進め方は以下のようになりますが、5.にあたる第2ラウンドのやり方が635法とは異なります。
第1ラウンドは5分間で、各メンバーがシートの1列目にアイデアを3つ記入していきますが、その際に「絶対に空白のまま隣の人に回さないでください」ということをメンバーに注意喚起します。ブレインライティングは「タネとなるアイデアを参加メンバー全員で育てる」のが大きな特徴です。ブレインライティングシートの1列目から2列目、2列目から3列目へと行くに従ってアイデアを肉付けしていき、参加メンバー全員の共同作業で1つのブレインライティングシートを完成させます。そのため空白のマス目を作ってはいけないのです。
第2ラウンドは2列目に自分のアイデアを記入するのですが、その際に、前の人のアイデア(1列目のアイデア)を読み、その内容を発展させられないか、補足できないかを考えてアイデアを記入します。前の人のアイデアを継承していくイメージです。継承した場合は図2のように枠の境目小さな矢印(↓)を書きます。前の人のアイデアを、それ以上発展できない場合は、枠の境目に太い線(図2参照)を引き、自分で考えた新たなアイデアを書くようにします。
ブレインライティングは、前回の記事で解説したブレストの「便乗できるアイデアがないか考える」のステップまでを含んだ発想法です。635法とブレインライティングのどちらを使うかは、以下のように参加メンバーの特徴によって選択していくとよいでしょう。
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