3Dプリンタ製の殺傷能力のある拳銃を所持していた大学職員が銃刀法違反(所持)容疑で逮捕された。一部の報道では、「3Dプリンタを法的に規制すべき」といった意見も見られるが、3Dデータ関連の識者はどう考えているのか。今回は、ケイズデザインラボ 代表取締役 原雄司氏、いわてデジタルエンジニア育成センター センター長 黒瀬左千夫氏、建設ITジャーナリスト 家入龍太氏、3D-GAN 理事 水野操氏に話をうかがった。
2014年5月9日公開の「殺傷能力がある拳銃を作れる3Dプリンタは法的に規制すべきか?」では、3Dプリンタ製拳銃所持の検挙に関する一部報道で見られた、「3Dプリンタの使用や購入に対して法的な規制をすべき」といった意見について、業界団体「3Dデータを活用する会」(3D-GAN)の相馬達也氏と、FabLab Japanのメンバーでもあるシティライツ法律事務所の水野祐弁護士のコメントを紹介した。
3Dプリンタなど3次元データ関連技術に携わる人たちの間では、「3Dプリンタはあくまでツール」であると、報道の内容を冷静に見つめながらも、世の中に3Dプリンタについて誤った認識や過度な不安が広がってしまうことへ心配もあるようだ。
本記事でも引き続き、今回の“3Dプリンタ銃”騒動に関して、3Dデータやモノづくりに関わる識者によるコメントを紹介する。
ケイズデザインラボの原雄司氏は「この時点で3Dプリンタの普及に水を差すような規制は、日本の経済、教育の発展に大きなデメリットになる」一方で「報道に対し不安を抱えている人たちに対して、3次元技術関係の業界や関連団体が何らかしらのガイドラインの提示や声明の発表は必要ではないか」と話す。
原氏 今回の事件はメディア各社が、「3Dプリンタ」というバズワードに乗っかり、無責任に「怖い怖い」と煽り過ぎだと思いました。まず一般の方については、「ボタンを押せば、3Dプリンタの拳銃が出てくる」と本当に思っている人が多く、漠然とした不安を抱えています。また製造業の技術者についても、果たして、3Dプリンタについて正しく認知しているのかといえば、私が接している方々を見ている限りではそうでもなく、今回の報道で不安になっている人も多いのではないかと思います。
また「3Dプリンタの精度では本物の拳銃は作れない」「銃弾が入手できなければ大丈夫」という言葉だけでは、不安要素は完全にぬぐえないのではないかと思います。日本で銃弾の製造が法で規制されているといっても、「日本国内で不法に銃弾が製造されていないのか」あるいは「一般の人が手の届く範囲に銃弾の情報が出回っていないのか」といったことを実際には完全に保証できないですし、「絶対安心」ということはあり得ません。
今後は、今回の報道を耳にした方々の漠然とした不安を緩和するための説明をはじめ、何らかの対応が求められると思っています。3次元技術にかかわる企業や関連団体(FabLabやRepRapなど)は、「(人命にかかわるような)危険な3次元データをアップロードする」あるいは「3次元プリンタで危険物を製作する」といった行為を確認した場合は必ず警察に通報するといったガイドラインを策定したり、今回のような事件が起きた場合に声明を発表するなどの対応を行う必要があります。そのためには業界内で話し合いを進めなければなりません。実際、私の周囲ではそういう議論が始まっています。
また技術系のメディアが、「3Dプリンタで何ができて、何ができないのか」、正しく分かりやすく説明し続けて、認知を広げていくことも大事ではないでしょうか。
今回の件は、「ネットにアップロードされた拳銃の設計データを利用して、3Dプリンタで部品を造形して組み立てて製作したら、警察に捕まる」という道徳的な喚起になった点はよかったのではないかと考えています。
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いわてデジタルエンジニア育成センター センター長を務める黒瀬左千夫氏は、岩手県で各種3次元技術を活用するエンジニアの育成と、製造業のシステム化支援に携わっている。かつて東北リコーの設計開発現場における3次元技術推進の旗振りを担った人物だ。
これからの日本の製造業における3次元技術の普及と活用をとなえる同氏は、「3Dプリンタで『やってはいけないこと』を規制する」動きであってほしいという。
黒瀬氏 容疑者が使用した3Dプリンタは熱溶解積層(FDM)方式だと聞いています。その造形物は、銃弾の火薬を爆発させたら銃身がぶっ飛ぶ程度の強度です。これでは使う方が危険で話になりません。金属が造形可能な3Dプリンタ(RP装置)もありますが、個人で購入し、すぐに使えるような装置ではありません。
3次元ツールは、これからの新たなモノづくりに非常に重要なものです。人材育成を進める際には、「どのようにうまく使っていくのか」とともに、「やってはいけないこと」もしっかりと教える必要があります。そして、拳銃の3次元モデルデータや爆弾の製造方法をWeb上に載せることや、そのデータを利用して拳銃を作ることを規制し、それをしっかりと一般市民へ周知するべきだと思います。
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建設ITジャーナリストの家入龍太氏は、3Dプリンタで拳銃を作った人物が逮捕された直後、2つのテレビ局から「3Dプリンタを規制すべきかどうか」という取材を受け「規制は全く必要ない」と即答したという。また、報道によれば容疑者は「(今回のような拳銃の製作が)違法とは知らなかった」というが、「銃刀法違反」に関する世間の認知も足りていないのではと家入氏は指摘する。
家入氏 映画館では「映画の違法アップロードは禁止です」と、重い刑罰の件を含めてPRしているので、あえてそれをやろうとしている人は少ないと思います。それに比べると、「銃刀法違反がどれだけの懲役になるのか」といったPRは圧倒的に不足しています。そのため、今回、逮捕された人も3Dプリンタで銃のようなものを作るのに、あまり罪の意識を感じなかったのではないでしょうか。
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3D-GANの理事で、MONOistの執筆陣である水野操氏は、そもそも今回の事件についてさまざまな問題がきちんと整理されずに議論されていることを指摘する。また「この一件がきっかけで、日本国内で殺傷能力を備えた銃を作る人が続々出てくるとは思えない」と述べている。
水野氏 「規制」といっても、さまざまなレベルや方向性があります。「何を」「どんな基準」で決めるのでしょうか。また、何らかの形の規制が始まり、それに関連した許認可団体が出てくれば、さらに利権団体も出てきそうな気がします(これは考えすぎでしょうか……。笑)。
今回の問題は、「拳銃を作ることができる機械の可能性」「犯罪となる行為」「そこからの危険性」などの要素をきちんと分けて考えずに、全てをゴチャゴチャに考えているところに問題があると思います。
拳銃に対する懸念は、昨年(2013年)から私もさまざまなメディアの方に質問されてきました。その際、私の方から逆に、「それが簡単に作れるならどんどんやりますか? 使いますか?」と逆質問をしました。誰しも答えはNOでした。「法を犯してまでやるメリットなどない」というのがどなたからもいただいた答えでした。それが“普通の人”の感覚であり、その例外を逸脱する人のために法律があるわけです。
今回の件については、問題は機械にあるのではなく、あくまで人にあったと思っています。「銃刀法に違反した行為をした」とされる被疑者の問題であって、だからこそ既存の法律で対応が可能でした。よく新技術の登場などにより、「既存の法律が追いつかなくなる」ということはありますが、これについてはそうではないと思います。
3Dプリントサービスについては既に、公序良俗、法令に反するものなどについてルールがあると思いますが、今後は、それをより明確にして、自社のガイドラインを出し、それを順守していれば問題ないでしょう。
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