「日本人は働き過ぎだから休みなさい」といった報道が耳に入ってくるけれど、実際の統計の数字を確認すると、「それ本当なの?」と思えてくる。日々の報道をうのみにせず、自ら情報源を確認しよう。
新年度を迎え、気持ちを新たに業務に取り組んでいる方も多いと思いますし、新しい環境で戸惑いながらも順応するために努力を重ねている方も多いことでしょう。私自身も、新年度に入り新たな目標に向かって必死に前進しようともがいています。そんな中で、今回も昔から気になっていたことをあらためて調べてみました。
さて唐突ですが、皆さんは「公益財団法人 日本生産性本部」という組織をご存じでしょうか? 「生産性向上対策について」という1954年9月24日の閣議決定に基づき設立され、時代の要請に応えて存続してきた団体です。今回は、この団体のWebページに掲載されている「日本の生産性の動向2013年版」という資料のデータが興味深かったので、私なりにまとめてみることにしました。今回の出典資料については、下記の日本生産性本部のWebページからダウンロードできます。
関連リンク: | |
---|---|
⇒ | 日本の生産性の動向 2013年版の概要 |
「日本の生産性の動向2013年版」の中で、私が特に興味深いと思ったのが、「国民1人当たりGDPの2012年OECD加盟国比較」です。国民1人当たり「GDP=国内総生産(GDP)÷人口」という計算をした結果が、以下の順位です。
*( )内の単位はドル
1位 ルクセンブルグ(91,378)
2位 ノルウェー(65,638)
3位 スイス(53,733)
4位 アメリカ(51,689)
5位 オーストラリア(43,899)
6位 オーストリア(43,848)
7位 アイルランド(43,578)
8位 スウェーデン(43,176)
9位 オランダ(43,146)
10位 デンマーク(42,176)
11位 カナダ(41,545)
12位 ドイツ(41,241)
13位 ベルギー(40,106)
14位 フィンランド(38,282)
15位 アイスランド(37,569)
16位 イギリス(37,446)
17位 フランス(36,249)
18位 日本(35,203)
19位 イタリア(33,139)
20位 スペイン(32,081)
OECD平均(34,806)
日本はバブル景気終わりごろの1990年で6位でした。現状の順位は1970〜1980年頃と同水準です。
この数値は「購買力平価説(PPP)」という指標を利用し各国の為替差を修正しているそうです。PPPについては、下記引用のようにウィキペディアにも記載がありますが、詳しいことに興味があれば各自で調べてもらえればと思います。
購買力平価説(こうばいりょくへいかせつ、Purchasing Power Parity Theory, PPP)とは、外国為替レートの決定要因を説明する概念の一つで、為替レートは自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決定される、という説である。1921年にスウェーデンの経済学者、グスタフ・カッセルが外国為替の購買力平価説として発表した。
上のウィキペディアには、興味深い数字がいろいろ乗っていますので、こちらも興味があればご覧ください。
今度は「労働生産性」という項目の中にあった「時間あたりの労働生産性の動向」と言う項目を見てみます(図1)。
※( )内は、常用労働者全体の年間労働時間
1995年度 4,083円(1,914.0h)
2000年度 4,288円(1,846.2h)
2005年度 4,396円(1,805.9h)
2007年度 4,416円(1,806.6h)
2008年度 4,314円(1,773.3h)
2009年度 4,326円(1,846.2h)
2010年度 4,347円(1,752.2h)
2011年度 4,292円(1,756.1h)
2012年度 4,319円(1,751.2h)
この数字を見る限りでは、労働時間の短縮が進んでいることが分かります(ただし1995年比較で労働時間は減っても生産性は上がっています)。
他にも、いろいろな指標が掲載されていて、頭から煙が出てしまうような内容ですが、興味深い内容です。これ以外にも、総務省の統計データなども、マーケティング的にも面白い数字が並んでいます。
「日本人は働き過ぎだから休みなさい」といった報道が耳に入ってきますが、実際の統計の数字を見ると、アメリカよりも短時間の労働です(図2)。ちなみに韓国はいまだに2000時間を超えています。
日本の労働の質がある程度向上しない限り、1995年より8.5%減少した労働時間分だけ所得が減少してしまいます。
「何が言いたいのか」といえば、日々、テレビや新聞などで報道されている内容や数字をそのままうのみにするのではなく、自ら情報を取りに行くこと、生の最新情報を入手することが、これからは非常に重要なのではないかということです。自分の目で情報を確認しないと、報道に惑わされてしまい、正しい判断ができなくなってしまうでしょう。
マスコミは「報道の自由」を持っているのと同時に、「報道しない自由」も手にしていることを忘れず、なおかつ媒体は営利企業がスポンサーを募りながら運営されていることも忘れないようにしたいです。
私たちの取引先である大手企業や、大手のライバル企業は、こういう数字を元にビジネスの戦略を練っています。彼らがどう動くかを予測するためには、小規模事業者である私たちも、もっと勉強する必要があると考えています。大手に“アゴで使われる”下請けを脱却するためには、やはり知識をベースにした戦略・戦術が必要で、運と勘に度胸だけではかなわないでしょう。
大手が国内を見放し、海外に活路を見いだそうと必死な今、小規模事業者とはいえ世界を意識した競争をしていかなければならない時代に入ったのだから、戦うための知識を蓄えておく必要があります。それは、国内にとどまって国内需要で生きていこうという企業でも同じであることも忘れてはなりません。このことは、読者の皆さんも異論ないと思います。
私の場合は、学生時代に全く勉強しなかったツケが回って来ていますが……、予備知識もないため、知らないことは気になった時点で調べるしかなく、そのおかげで最新の情報を手に入れられてすごくラッキーだと考えています。……という前向きな気持ちでいろいろなことを勉強していければと思いますし、「人生は、死ぬまで勉強」といわれるゆえんを感じる今日この頃です(笑)。(次回に続く)
伊藤 昌良(いとう まさよし)
1970年生まれ。2004年に株式会社エムエスパートナーズを創業。加工部品専門の技術商社として、アルミ押し出し形材をはじめ切削加工部品やダイカスト製品などを取り扱う。「役割を果たす技術商社」を理念に掲げ、組み立てや簡易加工を社内に取り込みながら、協力会社と共に一歩前へ踏み出す営業活動を行っている。異業種グループ「心技隊」創設メンバー。「自分に出来る事を、自分の出来るやり方で、自分が出来る限りやる」を基本とし、製造業界に必要とされる活動を本業の傍ら日々取り組んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.