承認には「存在の承認」「変化の承認」「成果の承認」という3つの承認があると前回の記事で解説しました。このうち成果の承認では、相手が褒められることに慣れてしまい、次第に反応が少なくなっていく事態におちいることがあります。褒めているのに、あまり喜んでいないという状態です。
その対処法として活用できるスキルが「アイメッセージ」「ユーメッセージ」です。「アイメッセージ」の「アイ」とは英語の「I=私」のことです。つまり、「私」を主語にしたメッセージということです。一方、「ユーメッセージ」は「You=あなた」を主語にしたメッセージです。両者の違いは以下のようになります。
どちらも「資料のまとめ方がうまい」という点にフォーカスしているのですが、ユーメッセージの方が“上から下へ”発せられるメッセージのように感じたのではないでしょうか。上司が部下を褒める時、ほとんどの場合はユーメッセージになっていると思います。ユーメッセージを使う上で気をつけなければならないのは、自分の評価と相手の評価は必ずしも一致しないということです。例えば、自分ではそれほど努力していると思っていないことに対して、「すごいね、努力したんだね」と言われても「いや、全然努力してないよ」と思い、素直には喜べないでしょう。逆にお世辞やイヤミに思えたりすることもあります。
部下の成果を探して褒めることは基本的には良いことなのですが「なんでもよいから、取りあえず褒めておけばよいだろう」という発想になってしまうと、褒め言葉が単なるお世辞となってしまい、部下の心には響かなくなってしまうのです。自分が料理を作っているとして、どんな料理を出しても「おいしい」と言われるとします。最初のうちは、うれしいかもしれませんが、そのうち「本当においしいと思っているの?」という懐疑的な気持ちになるでしょう。部下も同様になんでもかんでも褒められていると「本当にそう思っているのかな?」という気持ちになってしまうのです。
そのため「ユーメッセージ」だけではなく「アイメッセージ」を活用して褒めていくことが必要なのです。アイメッセージは、相手に対する自分の感情を伝えるだけなので、相手がイヤミに感じたり、反発することはありません。むしろ、喜んでくれた他者の存在を通して自己承認ができるためモチベーションの向上につながります。誰でもそうですが、喜びや感謝といった相手からのポジティブな反応はうれしいものです。
上司と部下という関係性の場合、「良い所を探し出して褒めてやっている」という上から目線の褒め方になってしまいがちです。そんな時は、アイメッセージを効果的に活用して褒めていくことで、部下の心に響く「成果の承認」ができるようになるでしょう。
どう? 何がいけなかったか理解できたかしら?
はい! すごくよく分かりました。スキルのことばかりに目がいってしまい、相手が本来持っている能力や可能性を最大限に発揮させるという、コーチングの目的を忘れてしまっていたように思います。
そうね。コーチングがうまくいっていないなと感じたら、いったん、相手の可能性を最大限に発揮させるために質問、傾聴、承認のスキルを使えているかどうか、振り返ってみるといいわね。
ありがとうございます!! 早速、これからのコミュニケーションに活用していきたいと思います。
コーチングのスキルは、仕事だけでなくプライベートにも活用できるから、ぜひ継続して取り組んでいってね。
プライベートですか……。でもレイコ先生を見る限り恋愛には使えないですね(笑)。ハハハ。
あら、ヒドイ!! 私は、たまたま縁がなかっただけよ……。グスングスン……。
今回は、コーチングを実践する上で陥りやすい失敗例とその対応方法について解説しました。コーチングを実践する上で忘れてはならないのは、質問、傾聴、承認のどのスキルも「相手が本来持っている能力や可能性を最大限に発揮させること」ためにあるということです。
次回は、会議の運営などで役立つ「ファシリテーション」のスキルについて解説したいと思います。
小山新太(こやまあらた)
MPA所属 中小企業診断士。販売促進やマーケティング、コミュニケーションスキルを専門とし、中小企業支援やセミナー講師などを行っている。
「MPA」は総勢70人以上の中小企業診断士の集団です。MPAとは、Mission(使命感を持って)・Passion(情熱的に)・Action(行動する)の頭文字を取ったもので、理念をそのまま名称にしています。「中小零細企業を元気にする!」という強い使命感を持ったメンバーが、中小零細企業とその社長、社員のために情熱を持って接し、しっかりコミュニケーションを取りながら実際に行動しています。
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