ここまではダイオードの順方向特性の一部について説明しましたが、トランジスタやFETにも、それぞれの特性を定義する等価回路、数式、係数名が定められています。これらの係数の値を、モデルパラメータ(SPICEパラメータ)と言います。
前述したデバイスモデルとは、リスト1のように、このモデルパラメータをまとめたものです。サブサーキットモデル、IBISモデルと同様に、SPICEが解析時に使用する基礎ファイルになっています。
また、ライブラリファイル(拡張子は.LIBもしくは.lib)といわれるものは、複数のモデルファイルをまとめて1ファイルにしたものです。図5は、ライブラリファイルとモデルファイルの関係を表しています。
解析を行う際には、使用する部品をSPICEに指定しなければなりません。しかし、このような構成にすることで、モデルファイルを個々に指定する代わりに、それらを含んでいるライブラリファイルを指定すれば済むようになっています。例えば、メーカーごとのライブラリファイルにしてモデルを管理しやすくしたり、カテゴリ別のファイルとして使いやすさを向上させたりできるようになるのです。
ファイルそのものは単純なテキストファイルですので、テキストエディタなどで内容を確認できます。ファイルの内部構成を理解するため、お手持ちのライブラリファイルの内容を一度確認されることをおすすめしますが、編集はしないでください。
参考までにモデルファイルの構文は表2のようになっています。使えるのはASCIIの半角文字限定で、大文字や小文字の区別はありません。
例としてダイオードのパラメータ項目の抜粋を表3に記します。
これらの項目の値を、リスト1のように、
“パラメータ項目名=値”
という形式のスペース区切りで表記します。
1行で表現するのが基本ですが、前ページのリスト1のように改行して“+”記号で連結することも可能です。項目名の列挙の順番は関係ありませんが、項目名はキーワードですから名称を変えるとエラーになります。
実際の解析で、表3で紹介した15種のパラメータを全て決めないと解析モデルとして使えないかというと、そのようなことはありません。筆者のWebサイトでも、ダイオードで40種以上のパラメータ項目を紹介していますが、決められていないパラメータについては省略時の値が自動で用いられるので、解析が破綻しないようになっているのです。
モデルの“出来”“不出来”は解析結果に影響します。しかし、特性とパラメータの関係について知識がないと、どのパラメータが関係しているのかが分かりません。カット&トライでは見当違いのパラメータをいじったり、肝心の基本特性がおかしくなったりすることが多いのです。ですから、
意味を理解しないままパラメータを調整することは厳禁
と言われるのです。
また、モデルパラメータを調整する際には、モデルのバックアップを取っておき、調整後のモデルを別名で管理し、回路図にも明記して第三者にも分かるようにすべきです。
今回はSPICEパラメータについて簡単に説明しましたが、詳しく勉強されたい方はデバイスモデリングの書籍やWebサイトで情報が公開されていますので、それらを参考にしてください(書籍であれば、「SPICEとデバイス・モデル」、「Spice: Practical Device Modeling」、「The SPICE Book」、「Semiconductor Device Modeling with Spice」など)。
次回は、SPICEモデルの入手方法、開発STEPとモデルの精度の関係とともに、サブサーキットモデルについても説明します。
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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