設計した回路をSPICEで解析するには、使用している部品のSPICEモデルが必要だ。第10回では、このSPICEモデルについて解説する。
これまで連載の中で述べてきた、「分かって設計する」という目的でSPICEを導入し、「さあ! 設計を始めよう」と勇んで回路図を作成する段階になって問題となるのが、“ツールに標準で含まれている半導体素子のモデルは圧倒的に海外製品が多く、日本製半導体素子のモデルは少ない”という点です。
抵抗やキャパシタのように値しか設定しないものは構わないとしても、半導体素子のように型番ごとに特性が大幅に異なる場合のシミュレーションは、目的とする型番で行わなければ当然、設計に役立つ結果は得られません。たとえ、目的がアイデアの確認であったとしても、的外れな部品のモデルを使っていては、その結果を信用することはできないのです。
半導体素子モデルの登録数の不足は、「LTspice」のような無償ツールだけの問題ではなく、「PSpice」のような商用ツールでも同じです。日本製の半導体素子のモデルは、標準では十分にそろっていませんし、皆さんがSPICEを導入した後から販売が始まった製品のモデルも含まれていません。やはり、使いたい部品のモデルは、皆さんが独自にそろえるしかないのです。それでも最近は、データを公開してくれている半導体メーカーが増えて環境が改善されつつあり、個人でも入手しやすくなっています。
今回と次回は、これらのSPICEモデルやライブラリについて説明します。
SPICEでは各部品の特性を要素行列に組み込んで計算します。そのために、部品の特性は数式で表現されるのですが、記述書式が統一されていないと、機械的に要素行列として組み込むことができません。このあらかじめ決められ、統一された書式のファイルが、SPICEモデル(ファイル)と言われるものです。
SPICEの解析に用いるSPICEモデルには大きく分けて次の3種類があります。
ダイオード、トランジスタのように等価特性を所定の数式で表現し、各特性の係数をファイルにしたものです。いわゆるSPICEモデルと呼ばれるものの大半は、このデバイスモデルです。
しかし、さらなる高精度を追求する場合には次のようなものもあります。
サイリスタのように遷移特性を持つため数式で特性を表現することができないものや、ICのように内部回路全てをモデル化するのは現実的でないのでその機能を等価的な数式で表現したものなど、素子の内部を「A部品+B部品」のような組み合わせで表現したものです。
高速LSIの信号伝達波形の解析を行う場合に用いられるモデルで、ICの入出力間の機能・特性のみを数式的に記述したモデルです。IBISオープンフォーラムが策定した規格に従って、パッケージとI/Oレベル、それぞれに関する規定の部分に分かれています。
外から見た電気的特性(電流−電圧特性、スイッチング特性など)のみを記述しているので、シミュレーション時間が短いという特徴がありますが、主な用途がデジタル伝送線の解析ですので今回は取り上げません。
これらのSPICEモデルをファイル化したものがモデルファイルです。
注)基本モデル:L、C、Rや、電圧源(V)、電流源(I)のように、品番ではなく値を設定して使用するデバイスです。これらはSPICEの基本ファイルに含まれており、通常SPICEモデルとは呼びません。
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