図1は、多くの家庭のキッチンにある床マットです。「フロアマット」と呼ぶ場合も多いと思います。
その1つが定番のカーペット状のマットで、パイル生地でできています。図中に示す商品の定価は1500円です。
一方、あえて説明のために宙に浮いている床マットは、塩ビ(塩化ビニール)製の透明床マットです。その商品の定価は、1万4800円です。
さて、冴えまくっているエリカちゃんよ! どっちの床マットを買う?
当然、カーペットの方でしょう! 考える必要はないですね。第一、値段が違いすぎますし、塩ビの透明マットなんて殺風景だし、女子として「選ぶ楽しみ」もないですし。
それでは、エリカちゃんに、2商品を詳しく評価してもらった結果を以下に示します。
塩ビの方は全くお話になりません! キッチンをよく使う女性を無視したマーケティング、商品企画じゃないですか! どうせ、うちの職場の管理職みたいなオッサンが企画したんでしょう? フン!
そんじゃ、ここまで女性の心を把握できた良君! キッチン用床マットの商品を企画してみろ。つまり6W2Hを作成しろってことだぁ!
合点承知! え〜〜と、これでどうでしょうか、エリカさま〜。
えっ? ちょっと、どうしてこうなるの? さっき私が評価した12項目、ちゃんと見てました?
僕には僕の考え方があるさ。だいたいさー、まず床が汚れなきゃいいんでしょー。それに、これなら水や油をはじくから、汚れても雑巾でひとふきすればいい。楽でしょ?
はあ? 毎回毎回拭かせる気ですか? しかも、かがんだ姿勢で? 国木田さんって、自分で料理やお皿洗い、洗濯もしたことないでしょ?
そういうことは、いつもおふくろがやってくれてるし、毎日仕事や勉強で忙しいしぃー。
イラァッ! つまりこれは、そんな勝手な男が考えた、勝手な商品ということですね!!
もっ! 申し訳ありません、エリカさまぁ!
エリカちゃん、きっとこいつは商品開発には向いてねぇのよ。第一、センスがねぇときたもんだ。そんじゃ、オレサマがエリカちゃんの要望するマットの6W2Hを作成するぜぃ! これでどうだ!(表2)
そうそう、やっぱりデザインも大事。それに、水は吸収してくれた方がいいのよね。さすが甚さん! キッチンで働く女性の気持ちを的確に反映しているわ。
ううう……。しくしく。
表1と表2をじっくり時間をかけて比較してみてください。特に、グレーの部分に注目です。いつものように「料理を設計、料理人を設計者」にたとえて説明すれば、表1は(エリカちゃんの視点から見たら)「2流、3流の料理人」、表2は「一流の料理人」となるでしょう。さらに、ガラケーとスマホを当てはめてみて考えてみてください。
そして、今回の、『劇的ビフォーアフター』に登場する建築士の行動を思い出してください。注目すべきは、番組の初めの部分です。毎回登場する建築士は、お客さまとのラポールを繰り返し、6W2Hを練っていることが分かります。お客さまの真の要望が把握できない建築士が登場したら、先ほどの塩ビ製キッチンマットのような番組にしてしまうでしょう。
6W2Hは、技術者としてお客さまとのコミュニケーションを円滑にする道具であり、設計者としての重要な設計ツールであることが、料理人や建築士から学ぶことができました。皆さんもまずは、お客さまの声を6W2Hにまとめることから始めてください。これが設計者の修行です。
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また次回お会いしましょう。
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会、埼玉県技術士。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)をはじめとする多数の書籍を執筆。
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