最後に、大手電機メーカーと同様に家庭用蓄電池事業を積極的に展開しているニチコンから、その推進役である電源センター 蓄電システム企画部長の山本隆禎氏にお話を伺った。
和田氏 家庭用蓄電池の市場動向と、その使われ方をどうみているか。
山本氏 東日本大震災直後から、震災後の電力不安を解消するために、家庭用蓄電システムが購入され始めた。しかし当時、家庭用はほとんどがポータブルタイプ(移動型)で、蓄電池の容量も2k〜3kWh程度しかなく、購入目的も停電時に身の回りの小型家電を使えるようにするというものにすぎなかった。
当時、ニチコンも既に家庭用蓄電システムの開発をスタートしていたが、急きょ発売予定を早めて、2012年8月に電力会社の系統や太陽光発電システムとも連系が可能な家庭用蓄電システムを発売した。同システムの電池容量は7.2kWhである。ニチコンの家庭用蓄電システムは電気安全環境研究所(JET)から、系統連系が可能な蓄電システムの第1号として認証を受けており、その後、多くの企業がこの系統連系型蓄電システムの分野に参入してきた。
2013年の家庭用蓄電システムの市場規模は、ポータブルタイプの蓄電池も含めて約1万5000台程度で、今後も年々大きく伸長すると予想している。当社は、販売パートナーであるセキスイハイム様の新築住宅のスマートハウス化を実現する、太陽光発電システム、HEMS(Home Energy Management System)、蓄電システムの3点セットとして販売されたり、大手太陽光発電システムメーカーの京セラ様に、そのブランド力と強力な販路で販売していただくなどして、高シェアを保っている。
使われ方としては、普段は安い深夜電力を貯めて朝夕や昼間の電力使用ピーク時に活用し、電気料金を節約する。そして万が一停電が発生した場合には、家庭用蓄電システムから住宅側に自動で電力をバックアップする。太陽光発電システムで昼間に発電した電力も蓄電システムに貯めておけるので、太陽光発電を行えない夜間でも家電製品などに電力を供給できる。
和田氏 家庭用蓄電システムは将来どのような方向に向かっていくのか。
山本氏 今後のニーズは大きく2極化していくと思う。1つは、電池容量は少なくても低価格なシステムに対するニーズである。通常の停電は長くても数分、東日本大震災の際に実施された計画停電であっても4時間程度しか続かない。その間だけ電力を供給するという要件に合致していればいいいというわけだ。非常時にどのようなものに電力を供給したいかというアンケートを行ったところ、照明、冷蔵庫、テレビがベスト3だった。いずれも、それほど消費電力が大きいものではないので、低価格なシステムでも十分対応可能である。
もう1つは家庭用蓄電システムの活用による電力の地産地消のニーズである。つまり、太陽光発電の固定価格買取制度における買取価格は、現在の1kWh当たり38円から今後は年々低下していく。逆に、電気料金は原発再稼働が難しい中、海外から高い原油や液化天然ガスを購入しての火力発電が主力となり続けるのであればさらなる値上げは必須だろう。このため、早ければ2016〜2017年にも、太陽光発電の買取価格と電気料金が逆転する現象が起こると予測される。
このような状況では、太陽光で発電した電力を安い価格で売電するよりも、家庭用蓄電システムに貯めておき、夜間に住宅で使用する「電力の地産地消」の動きが強まり、電力自給率を高められるような大容量蓄電システムへのニーズが高まってくるものと考える。
和田氏 家庭用蓄電池の電池特性はどのように進化していくのか。
山本氏 家庭用蓄電システムの購入を検討している方の最大の懸念は寿命である。携帯電話機やPCにも使われているリチウムイオン電池の場合、充電可能な容量が比較的早く低下するため、家庭用蓄電システムでも同様のことが起こるのではないかと心配する向きも多い。
当社では、蓄電池メーカーと詳細な実験とシミュレーション検討を重ね、業界で初めて10年間無償保証を打ち出した。保証内容は、購入から10年後で充電可能容量が初期の50%以上を有していること。また、その間の不具合は無償修理する内容となっている。これによってユーザーの不安を解消できた。これと同様の保証内容が業界標準となりつつある。
和田氏 ニチコンは日産自動車とともに、V2Hシステム「EVパワー・ステーション」を開発している。今後、家庭用蓄電池とV2H機器との連動はどうなるとみているか。
山本氏 日産自動車様と共同開発したV2Hには、ニチコンが長年培ってきたインバータ技術を詰め込んだ。現時点では、太陽光発電システムと親和性の高い蓄電システムと、EVと同時購入されるV2H機器は、ユーザーの購入動機が異なっているが、両機器のトップランナーであるニチコンとして相互連携が可能な新製品を検討している。
和田氏 今後、家庭用蓄電池が目指す姿や課題をどのように考えているか。
山本氏 先述した太陽光発電の買取価格と電気料金が逆転する時代の到来や、2009年度に始まった余剰電力買取制度で1kWh当たり48円の固定価格で売電を始めた多くの家庭の10年間の契約が終わって地産地消ニーズに切り替わる2019年に向けて、リチウムイオン電池の低価格化と相まって、家庭用蓄電システムの市場は大きく拡大していくだろう。家庭用蓄電池は太陽光発電システムになくてはならないものになり、電力の安定化、再生可能エネルギーの自給自足に大きく貢献するはずだ。
また各地で実証実験が進められているスマートシティ、スマートコミュニティーにおいても、電力の充放電制御によってデマンドレスポンスをより効果的に行える家庭用蓄電システムはますます重要な機器になっていくと考えている。
さらに、近い将来必ず来ると憂慮されている、東海〜東南海〜南海大地震などの災害による広域停電時にも、太陽光発電システムと蓄電システムがあれば、復旧に必要な電力の自給自足が可能になり、安心の備えを提供できると期待している。
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