これがFablabスタイル! 世界中の人たちによるワイガヤモノづくりキャンプ「Fab9」世界Fablab代表者会議Fab9レポ【後編】(1/4 ページ)

2013年8月21〜27日の7日間、世界のFablab運営者(Fablabマスター)が集まる「第9回 Fablab代表者会議(Fab9)」が、横浜で開催された。今回は、「会議」というか「キャンプ」といった雰囲気の同イベントの内容をお伝えする。

» 2013年09月18日 08時00分 公開
[高須正和/ウルトラテクノロジスト集団 チームラボ,MONOist]

>>2013年8月26日に開催された「国際シンポジウム」の内容については【前編】をご覧ください。

Fablabマスターたちの集中キャンプ「Fab9」とは

 世界各地から集まったエンジニア、大学研究者、デザイナー、教育者などのバックグラウンドを持ち、自分たちで作ることを好み、作るアイデアを共有することを好み、いつもオンラインでコミュニケーションを取っているFablabマスターたちが、年に一度集まって交流する。その場が、Fablab代表者会議だ。

 今回の「第9回 Fablab代表者会議(Fab9)」も、世界中から「水に困っている村に太陽電池で水をくむシステムを作る」「インターネットを安価に国中に張り巡らせる」「都市のエネルギーを最適化する」などの問題を、「自分たちで“作る”ことで解決する」という考え方を持ち、行動を好む人たちが集まった。

 南米やアフリカからのFabマスターは何十時間もかけて日本までやってきた。どのFabマスターもモチベーションが高い。会議も見やすく、話しやすい位置から先に席が埋まる。とはいえ、「ここがFablabムーブメントの中心地である!」という気負いは感じず、むしろ同窓会のようなカジュアルな空気感に満ちている。

 Fab9は、「皆で24時間を共有して、モノを作りながら一緒に考えるキャンプ」だ。ワークショップあり、プレゼンあり、セミナーあり……、同じメンバーが時間と空間を共有しながら、さまざまなプログラムに取り組む。会場内にはモノづくりスペース「Super Fablab」が24時間開放されていて、いつでも工作をすることができる。

 「多様な考えと同じモチベーションを持った人たちが一緒にいる」ということにすごく価値があるイベントだ。

Fab9の構成

 今回のFab9の1日の構成を簡単に説明すると、以下のようになる。

  1. 世界各地のFablabマスターによる活動内容の紹介
  2. 最新の知識を学ぶ招待講演
  3. お互いの問題について話し合うワークショップ

 さらに夜には「自分たちで日本食を作るワークショップ」、会期の最後には「廃材を使って自分たちで楽器を作り、演奏する」イベントが開かれた。

 招待講演のようにプログラムが決まっているものもあるが、その日でテーマを自分たちで書き込む形のワークショップも多く、集まった人たちが「その場でやることを決める」部分も多い構成になっている。

 会場に訪れた39カ国のFablabに加え、オンライン会議で参加する人を併せ、それぞれの活動を共有し合う会議も開かれた。

文化的にも経済的にも異なる各地のFablab

 僕が参加した21日には、北米/南米のプレゼンテーションが行われていた。南米ではコストダウン、教育、社会インフラといったところに関心を持つFablabが多い。Fabラテンアメリカは、「工作機械のコストダウンに関心がある」という発表が行われ、ペルーからは「小さい子どもに関心を持ってもらうための、おもちゃを使ったワークショップ」についての取り組みが紹介された。

 もちろん1つのテーマだけに取り組んでいるわけではなく、ペルーのFablabでは、他にも絶滅しそうな猿を救うためのワークショップや、インカ文明の計算機をコンピュータ上で再現するというプロジェクトが行われている。ペルーのFablabマスターは、「どれもペルー独自のもので、われわれは人類でないものや、歴史に対してもプロジェクトを行いたい」とプレゼンしていた。総じて南米のFablabからは、Fablabをいかに効果的に普及させて社会全体の発展スピードを上げていくか、という視点を強く感じた。

インカ文明の計算機をコンピュータ上に再現する

 続いて、アメリカのFablabが登場するとテーマが変わり、「刺激的で新しいものを生み出すためにFablabを活用していく」「Fablabに集まる人達がデザインとテクノロジーを組み合わせて新しいものを生み出していく」という発表が増えた。

 シカゴのFablabでは、博物館とFablabの活動を組み合わせ、作品を作るワークショップを多く開催した事例を紹介していた。それまで一方的に情報収集しに来る人だけだった博物館にコミュニティーが生まれ、来場者を1.5倍に増やすことに成功したという。

 センチュリー大学のFablabではNASAの宇宙探索コンペに応募して、月を目標に打ち上げるローバー(探査機)を制作している。「AS220インダストリー」というFablabでは、アーティストの活動をビジネスとつなげるためのサポートをしている。

 アメリカのFablabは企業連携も多く、全体を束ねる「USFLN」では中長期の5カ年計画を組んでおり「R&D分野でインパクトを残すこと」など、幾つかの目標に向かって進んでいる。同じ国の中でもFablabごとに取り組んでいるテーマは異なり、とても多様でありながら全体としてネットワーク化されている。

 東ティモールの参加者からは、「さまざまなfablabがあり、エレクトロニクスが得意なところ、民族的なところ、それぞれに違うが、全てがネットワークされていて、成果が共有されている。それが面白い」というコメントが聞かれた。

 世界から集まったFablab参加者も、他の国の事例に相づちを打ちながら興味深く聞き入り、プレゼン後には情報を交換する姿があちこちで見られた。

 どこのFablabも教育への関心が高い。しかも、Fabを面白がってもらうことを通じて学習機会を与えたい、という声が多い。面白がらせることをエンジンにしているのがいかにも「楽しい(ファビュラス)」を語源の1つにしているFablabらしい。

未来のFablabを想像する招待講演

 続いて先進的なモノづくりの事例を紹介する招待講演が行われる。

 僕が出席した日には2本の招待講演が行われた。1本目は東京大学大学院 総合文化研究科 助教授の舘知宏氏から「折り紙の科学」について講演。

 折り紙の作り方を数学的に解析し、コンピュータシミュレーションを行うことで、1枚の紙から複雑な形状を立ち上げるというものだ。「1枚の平面から構造体を立ち上げる」方向に話は加速し、金属や板を基に折り構造を作ることで、1枚の構造体から建物を作ることに話は広がり、さらにアクチュエータを仕込んで動かすことによりロボットを作るところまで「折り紙の科学」は進化するという。プレゼン中ずっとスライドを録画する参加者も目立った。

 最後にコンピュータシミュレーションした結果により完成した折り紙を披露したところ、会場からは拍手喝采。

 「なぜ折り紙を題材として選んだのか?」「具体的にどういうソフトウェアと手法を使って作っていくのか?」などの質問が飛んだ。

折り紙で複雑な構造を説明する舘知宏先生

 続いて、「DNAをデジタルファブリケーションする」というタイトルでハーバード大のピン・イン氏が講演。

 DNAをナノマシンで再構成して、遺伝子をプログラムすることにより、将来的に機械をまるで生物のように作ることについて語る。ナノサイズ(150ナノメートル)で作られたアルファベット文字が大写しされたスライドでは、会場から喝采が湧く。

 現在のFablabは目に見えるサイズの物理的な工作が中心だが、Fablabの思想を立ち上げたマサチューセッツ工科大学教授でビット・アンド・アトムズ・センター所長のニール・ガーシェンフェルド氏の著書「FAB」にも実際、ナノマシンが登場している。

 「FAB」ではFABの4段階として、以下が定義されている

  • 1.0:工作機械を使って作る
  • 2.0:工作機械そのものを作る
  • 3.0:人工物の循環(作ったものを壊して再度作るようになる)
  • 4.0:人工物が生物のようになる

 DNAはFab4.0につながっていくテーマだ。

 プレゼンは将来的に、進化した3DプリンタでDNAブロックをそのまま作る可能性や、情報をDNAにプログラムとして埋め込み、プログラムが成長することにより、まるで機械のようにこちらの目的に従って動いてくれる、機械とも生物ともつかないものを作る試みについて述べられて終了した。

 ガーシェンフェルド氏からは、「将来のFablabはDNAまでプログラミングする」というコメントが述べられた。

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