カーナビの渋滞予測サービスなどに用いられているプローブ情報。パイオニアは、このプローブ情報を活用して、同社の「サイバーナビ」に新たな機能を追加した。その新機能「スマートループ アイ」はどのようにして誕生したのか。また、ビッグデータとも見なされるプローブ情報をどのように活用しようと考えているのか。担当者に聞いた。
現在、カーナビゲーションシステム(以下、カーナビ)をはじめとする車載情報機器が、携帯電話ネットワークを介して通信接続されることは当たり前になりつつある。車載情報機器内に組み込んだ専用の通信ユニットやユーザーの携帯電話機やスマートフォンで通信するのか、スマートフォン本体のカーナビゲーション機能を使うのかといった違いはあっても、自動車内で通信接続によるサービスを利用する機会は、数年前と比べて格段に増えた。
カーナビを通信接続することによって受けられるサービスの中でも、リアルタイムで周辺の渋滞を予測して最適な走行ルートを選択する機能は重宝されている。この渋滞予測機能は、各車両に搭載されているカーナビから定期的にアップロードされる位置や速度に関する情報を、サービス提供企業のサーバで分析することによって実現されている。カーナビを通信接続しているユーザーは、渋滞予測機能の利用者であるとともに、渋滞予測に必要な情報の提供者でもあるというわけだ。
車両の位置や速度をはじめとする各種情報は、移動する車両を道路交通システム内における1個のプローブ(探針)と見なすことから、プローブ情報と呼ばれている。最近では、このプローブ情報をビッグデータと見なして、渋滞予測機能にとどまらない形で活用するための取り組みが進められている。
トヨタ自動車の「G-BOOK」、日産自動車の「CARWINGS」、ホンダの「internavi LINC(以下、インターナビ)」といった大手自動車メーカー3社の純正カーナビ向けサービスは、ユーザー数が多い(=プローブ情報を大規模に収集できる)ことで知られている。そして、これら3社と比肩し得る形でサービス提供とプローブ情報の収集を行っているのが、国内市販カーナビ最大手のパイオニアだ。
同社のカーエレクトロニクス事業統括部 カー事業戦略部 情報サービスプラットフォームセンター プラットフォーム開発部 研究開発課でデータサイエンティストを務める鎌田喬浩氏に、パイオニアのカーナビサービス「スマートループ」を中心としたプローブ情報の活用に向けた取り組みについて聞いた。
MONOist パイオニアはいつごろからプローブ情報の収集を始めたのか。
鎌田氏 「サイバーナビ」の2006年モデルから、スマートループというサービス名称で、プローブ情報を用いた渋滞情報と渋滞予測のサービスを開始した。プローブ情報の収集もこの時期から始めたことになる。
2006年のサービス開始から、スマートループで収集しているプローブ情報は2種類ある。1つは、通信を介して収集する「リアルタイムプローブ」である。リアルタイムプローブは、当時のそれほど速くない通信速度とあまり安くない通信料金を前提にしているので、走行履歴データ(位置情報と速度データ)のみをアップロードしている。
もう1つは、カーナビ本体のHDDやメモリ、SDカードなどに蓄積する「蓄積型プローブ」である。通信を使わないので、走行履歴データだけでなく、地点データや操作履歴、設定データ、AV視聴データなどさまざまなデータを収集している。蓄積型プローブは、半年に1回の地図更新のタイミングなどで、ハードディスクやSDカードをPCに接続するときに、サーバにアップロードされる。
2012年10月時点で、リアルタイムプローブと蓄積型プローブを合わせて、累計で20億kmの走行履歴データを収集した。
MONOist スマートループの渋滞情報や渋滞予測のサービスでは、パイオニアのプローブ情報だけを使用しているのか。他企業のプローブ情報は利用していないのか。
鎌田氏 現在は、パイオニアのカーナビから得たリアルタイムプローブ以外にも、ホンダのインターナビやJVCケンウッドの「彩速ナビ」など、他社のリアルタイムの走行履歴データも使用している。これらを当社のデータセンターで集積し、リアルタイムプローブをアップロードしていただいているスマートループのユーザーに渋滞情報/渋滞予測サービスとして提供している。
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