では、ディズニー・リサーチが考える“現実”とは何だろうか。プピレフ氏は現実を“自然(Nature)”と定義する。「自然こそが唯一、われわれが変えることのできない現実感であり、それ以外の人工的なもの全ては仮想現実感の1つの形である」(プピレフ氏)という。そして、プピレフ氏はバーチャルリアリティ開発のことを「環境をプログラミングする」という言葉で表現した。これが、オーディオアニマトロニクスを使い、人々を楽しませるアトラクションを作り出すディズニーの考え方の根底なのだ。
環境をプログラミングする――。その具体例として、プピレフ氏は話題の3Dプリンタの活用事例を紹介した。ただし、単に立体物を作るのではなく、光学的な回路を同時にプリンティングする「Printed Optics」というアプローチを採用している点に注目したい(動画2)。
技術的にはシンプルなものだが、これを応用することで、タッチや回す、スライドする、振るなどを検知できるセンサー部品までもが3Dプリンタで生成できてしまう。
さらに、インタラクティブなセンサーも3Dプリンタでシンプルに作成できるという。この技術の応用が、次に紹介するディズニー・リサーチの「Revel」だ。
Revelとは、“人間をプログラムする”ために用いられるセンサーテクノロジーである(動画3)。
ある物体に電圧をかけ、それに人が触る。そのとき、物体と指の間の摩擦により、定期的に電気の方向性が変わる。これは、エレクトロバイブレーションという現象だ。この特性を生かし、指で触れているときに、特定周期で交流電流の信号を物体側に流すことで、“物体の感触を変化させる”ことができるという。これをディズニー・リサーチではRevelと呼び、現在、さまざまな可能性を検証している。
デバイスとしては非常に小さなものだ。例えば、魚のおもちゃにこのRevelを取り付け、触ってみるとウロコがあるように感じる(画像10)。信号を変えることで、触った感触を“プログラミングできる”ことに注目したい。
このデバイスは何らかの物体に取り付けるだけでなく、人間に直接装着する“ウェアラブルデバイス”としても利用できる。そうすると、例えば、プロジェクターによって壁に投影された映像の手触りを感じることも可能になる(画像12)。環境を変えるのではなく、“人間側”を変える。デバイスを付けている限り、人工的な触覚を体験できるというデバイスだ。
つまり、「われわれの周りにある世界は、仮想現実の1つとして感じることができ、どんな場所でもプログラム可能になる。世界全体がプログラムで変えられるのだ」(プピレフ氏)。
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