車載向けホール素子を主力製品とするドイツの半導体メーカーMicronas(ミクロナス)は、不良率ゼロを目指した品質改善活動「Zero ppm」を全社レベルで展開している。万が一、同社製品に不具合が発生した際には、従業員にその不具合によって発生する車両の振る舞いを運転シミュレータで体験してもらうなど、品質への意識を高めるための取り組みを進めている。
車載向けホール素子(ホールセンサー)を主力製品とするドイツの半導体メーカーMicronas(ミクロナス)は、不良率ゼロを目指した品質改善活動「Zero ppm」を全社レベルで展開している。このために、製造プロセスや使用する装置によって生じる製品特性のばらつきをなくしたり、設計レベルから製品の品質を高めたりしている。さらに、全社員が「品質」に関する情報を共有し、不良率ゼロの継続に向けた取り組みを強化している。
同社は全売上高の約90%を車載向けが占めている。そのほとんどがホール素子である。一方、地域別の売上高構成比では、アジア地域が約70%を占め、さらにこのうちの80%が日本市場となっている。車載半導体や車載電子部品は、車両の安全性を確保するために、高い信頼性と品質が求められる。同社のホール素子は、スロットルバルブやアクセルペダルの変化量を計測するセンサーなどに用いられていることもあり、高い品質の製品開発に注力してきた。ミクロナスの品質担当副社長を務めるWolfgang Bossinger氏は、「高い品質を維持するために、前工程から後工程まで、自前の半導体製造ラインを保有し製造を行っている」と話す。さらに、「日本市場は、全売上高の50%を超える重要な市場である。だから、品質管理も日本流で対応している」(同氏)という。
「不良率ゼロ」に向けて、Micronasが取り組んでいることが幾つかある。その1つが製造装置やテスト装置の改良である。例えば、静電気に対する対策だ。Bossinger氏は、「製造ラインでは、ウエハーが静電気からダメージを受けることがある。この静電気は作業者から発生することが多いが、製造装置自体でも発生する。このため、製造装置にも対策が必要になる」と語る。これらの対策は、第三者機関によるチェックも受け、その対応が適切であるかどうかの評価も定期的に行っている。
APC(Advanced Process Control)にも取り組んでいる。例えばエッチング工程では、処理時の温湿度や気圧の変化によって、完成したICチップの特性にばらつきが生じることもあるという。ウエハーを加工する前にこうした影響を製造情報として盛り込み、製造工程の最適化を行うことで、製造ロットなどによるICチップの特性ばらつきをなくすのがAPCの目的である。
2つ目がDPM(Defects Per Million:100万回当たりの欠陥数)の低減である。より積極的に不具合への対策を行っている。「製造ロット」や「製造装置」、「材料」などの違いによって、製造したICチップに特性のばらつきが出てくる。出荷時には問題なく動作する場合でも、使用される環境などによって、正常に動作しないことや設計通りの性能が得られないこともある。許容されるギリギリの特性で良品と判断された品などでまれに現れるという。こうした現象を回避するには、ICチップの特性を許容されるスペックの中心値に限りなく近づけるように設計/製造しなければならない。万が一にも問題が生じた場合は、徹底してその原因を追究し解析する。「1台の自動車に60〜70個のホール素子が搭載されている。その中の1個でも正常に動作しないと自動車が停止してしまう」(Bossinger氏)可能性があるからだ。
3つ目が「迅速な決断と対応」である。ドイツ本社内では、回路設計やプロセス、メンテナンスなどあらゆる部門の専門技術者が同じ敷地内で業務を行っている。このため、全員がICチップの品質に関する情報を共有しやすい環境にある。Bossinger氏は、「決断のループが短く、課題を解決する時間も早い」と話す。また、「顧客とのコミュニケーションの中で問題点を解決していくことも多い。製品の品質に関しては、互いに連携をとりながら継続的に改善していくことが大切だ」と続ける。さらに、高い品質を実現し、それを維持していくために、設計工程を最重要視する。製造ロットごとの特性ばらつきなど、品質に関するあらゆる課題を全て設計工程で解決していく考えである。
日本の自動車メーカーや電装品メーカーの中には、不具合が発生したときに迅速な解析が行えるよう、日本国内に解析設備の設置とエンジニアの駐在を求める声もある。これに対してミクロナスは、「アナログ回路の解析は高度な技術力と検査設備が必要だ。不具合の原因を完璧に解析し、その対策を施すには、専門家がいるドイツ本社の方がより正確に早く行える」(Bossinger氏)と判断、顧客にもこのことを説明し納得してもらうという。また、解析のスピードをより速くし、件数も多くこなせるように、ドイツ本社の解析部門の人員を増員した。
最後にBossinger氏は、「製品の品質」に対する従業員の意識の高さを挙げた。かねてから、社内の各部門で品質改善活動を自主的に展開してきた。そして2005年からは、全社的な活動として「Zero ppm」プログラムをスタートさせた。このプログラムは、製品の品質に関して全社員が情報を共有し、製造と設計といった部門の垣根を超えて、社員同士が意見を交換することによって、「不良品ゼロ」を目指す活動である。万が一、自社のICチップに不具合が発生した場合、社内に設置された運転シミュレータを使って、不具合による実際の振る舞いを従業員に体験してもらう。従業員が自動車を運転する人と同じ視点で、品質の重要性を再認識できるようにするためである。
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