電気自動車やハイブリッド車の大容量車載電池システムに用いられるバッテリーモニターIC市場では、現在多くのICベンダーがしのぎを削っている。そのうちの1社であるMaxim Integrated Products(マキシム)は、2013年以降に発売される量産車への製品採用を続々と決めている。
電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)は、数十〜100個以上の二次電池セルから構成される大容量の車載電池システムを搭載している。化学反応によって充放電を行う電池セルは、最初から容量にバラつきがあったり、電極や電解液の経年劣化によって容量が低下したりする。
これら容量の異なる電池セルに充電する際には、他と比べて容量の少ない電池セルが過充電にならないように、各電池セルの電圧を監視して、充電を停止するような回路が必要である。もしこういった回路がなければ、かつてノートPCで起こったような爆発炎上事故が、さらに数十倍の規模に拡大してEVやHEVで発生する可能性もある。
また、容量の少ない電池セルに合わせて全ての電池セルへの充電を停止するだけだと、充電容量が少なくなってしまうという問題もある。このため、容量の多い電池セルへの充電が終わるまで、容量の少ない電池セルへの充電電流を抵抗器を介して熱として捨てる「セルバランス」という仕組みも必要になる。
かつて、車載電池システムにおいて、各電池セルの電圧監視やセルバランスの機能を担うバッテリーモニター回路は個別部品で構成されていた。しかし現在では、バッテリーモニター回路を集積したICが利用されるようになっている。Linear Technology、Intersil、ラピス セミコンダクタ(旧OKIセミコンダクタ)、東芝、日立超LSIシステムズなど多くのICベンダーが、バッテリーモニターIC市場でしのぎを削っているのだ。
2010年8月に、この車載電池システム向けバッテリーモニターIC市場に参入したのが、米国の大手アナログICベンダーであるMaxim Integrated Products(以下、マキシム)である。
マキシムは、携帯電話機やノートPCなど、リチウムイオン電池を1〜数個搭載する製品向けのバッテリーモニターICで高い実績を有している。1993年の市場参入から、現在までに50を超える製品を発表しており、ICの累計出荷実績も10億個以上に達する。同社は、これらの実績によって築き上げたリチウムイオン電池メーカーとの信頼関係を基に、車載電池システム向けバッテリーモニターIC市場に参入したのだ。
同社のバッテリー&インダストリアルパワー事業部でマネージング・ダイレクターを務めるNaveed Majid氏は、「車載電池システム向けバッテリーモニターICは、以下のような要件を満たしている必要がある。まずは、低コストであることだ。次に、数十個の電池セルの電圧を同時に管理するためのディジーチェーン接続対応と、ディジーチェーン接続時のノイズ耐性である。そして、自動車向け機能安全規格のISO 26262に準拠可能な自己診断機能も必要だ。もちろん、消費電力も低くなければならない。当社が車載電池システム向けに開発した製品は、これらの要件を全て満たしている」と説明する。
マキシムが2010年8月に発表した、車載電池システム向けバッテリーモニターICの第1世代品が「MAX11068」である。1個のICで12個の電池セルの電圧監視が可能で、ディジーチェーン接続にも対応している。セルバランスのためのスイッチも、各電池セルとの接続チャネルに備えている。コンパニオンチップの「MAX11080」を併用すれば、電池セルの電圧監視に冗長性を持たせられるので、ISO 26262への準拠も可能になる。「MAX11068は、2013年第1四半期(1〜3月期)に発売される量産車への搭載が決まっている」(Majid氏)という。
同社は、MAX11068の製品展開時に得た知見を基に、外部セルバランスと自己診断機能を強化した第2世代品「MAX17830」を投入している。2012年初旬から量産を開始しており、「こちらも2013年半ばに発売される量産車へ採用される予定」(同氏)である。
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