前回はパワー半導体の次世代材料であるSiCとGaNのウエハーに注目し、企業ごとの開発動向を知財の観点から説明した。今回は、国や地域ごとに状況を解説した後、特に日本企業の特許出願状況を分析する。技術者が自ら特許情報を検索する手法についても紹介しよう。
前編では、知的財産(知財)の視点から次世代パワー半導体ウエハーの企業動向に注目しました。今回の後編では、ウエハーの特許出願動向を国や地域ごとにふかんしてみましょう(デバイス編はこちら)。
まずは、世界のSiCウエハー関連特許について、出願動向の調査結果をご覧ください(図1)*1)。
*1) 今回は出願年に注目する目的で、商用の特許データベースを試用した。特許出願年と特許件数の関係には注意を要する。今回の特許調査時期は2012年7月である。特許の出願から公開までが通常1.5年を要することから、2010年までに出願された特許に限り、ほぼ全件を確認できていると考えられる。
ドイツを拠点とする企業(例:ドイツSiemensから分離し、その後ローム傘下となったドイツSiCrystal)の特許出願ルートには、WO特許/PCT経由、欧州特許、ドイツ特許という3つがある。(1)WO特許/PCT経由については注4を参照。(2)欧州特許とは、欧州特許条約(European Patent Convention)に基づく特許出願である。欧州特許庁で審査され、特許付与された場合、指定国へ翻訳文を提出することで、その国で特許として効力が得らる。(3)ドイツ特許とはパリ条約に基づく自国特許庁への特許出願である。自国特許庁で審査され、特許付与された場合、自国で特許として効力が得られる。なお、ドイツ特許の外国出願では、所定期限内に翻訳文を作成して優先権主張すれば、外国においても自国出願日が確保される。
WO特許/PCT経由の制度では、手続きを統一的に行うのみであるが、欧州特許の制度では、実体的な審査まで統一的に行う点が異なる。
図1から、SiCウエハー関連分野では日本*2)、欧州、米国*3)の特許出願件数が多く、WO特許/PCT経由の出願*4)がコンスタントにあることが読み取れます。しかも、WO特許/PCT経由の出願は、日本、中国への出願と共に増加傾向にあることも分かります。なお、韓国特許出願件数は2008年に増加から横ばい傾向に変わり、中国特許出願件数は2010年まで増加傾向にあります。
このような特許出願件数推移から、韓国と中国のSiCウエハー関連事業への本格的参入や中国の市場性の高さがうかがえます。
*2) 「日本企業の自国出願となる日本公開特許出願件数」は、「他の国/地域を拠点とする企業の自国/自地域への公開特許出願件数」よりも多い傾向にある。しかも、「日本への出願は外国企業にとっては、翻訳費用を必要とする外国への出願である」ことも考慮する必要がある。
*3) 米国の特許公開制度では、2000年11月29日出願以降のものが対象となる。このため、2000年の米国公開特許件数は極めて少ない件数に見える。
*4) 各国/地域への特許出願は、2種類ある。1つは、パリ条約に基づく各国特許庁への特許出願。もう1つはPCT(Patent Cooperation Treaty:特許協力条約)に基づくWO特許だ。WO特許は国際公開特許であるため、発行されるのは公開公報のみである。国際出願(PCT出願)を行った後に指定国の特許庁へ翻訳文を提出することで、各国での審査を経て国ごとの登録公報が発行され、特許の効力が得られる。PCT出願については関連記事を参照。
では、次に世界のGaNウエハー関連特許の出願動向を探ってみましょう(図2)。
図2から、GaNウエハー関連分野では日本、欧州、中国の特許出願件数が多く、しかも各地域/国とも2010年から出願件数が減少していることが分かります。なお、今回のGaNウエハー関連特許群にはパワー半導体用だけでなく、既に産業化されているLED用GaNウエハー関連特許も含まれています*5)。
*5) 特許を抽出するために用いた今回の簡易検索式では、GaNウエハー特許群を「パワー半導体用」と「LED用」の2つの用途ごとに十分に切り分けることができなかった。検索式については本文末の囲み記事を参照。
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