電気自動車(EV)ベンチャーとして知られるTesla Motors(テスラ)。セダンタイプのEV「Model S(モデルS)」の量産開始により、EVベンチャーから自動車メーカーへの転身を果たそうとしている。モデルSの開発と量産立ち上げに奮闘した、同社CTOのジェービー・ストローベル氏と、生産部門担当副社長のギルバート・パサン氏に話を聞いた。
若きITエンジニアとして成功したElon Musk(イーロン・マスク)氏が立ち上げた電気自動車(EV)ベンチャーとして知られるTesla Motors(以下、テスラ)。2人乗りのEVスポーツカー「Roadster(ロードスター)」を引っ提げてエコカー市場に殴り込みをかけ、最近ではトヨタ自動車やパナソニックから多額の投資を受けている。そんな華々しい話題に事欠かない企業だが、実はこの会社を支えているのは堅実なエンジニアたちなのだ。
多くの読者がご存じの通り、テスラが語られるときに、CEO(最高経営責任者)のマスク氏以外の人物にスポットが当たることは少ない。彼のインタビューはすでに名語録が編さんできるほど公開されているが、テスラの屋台骨を支えるエンジニアたちのことは、日本ではそれほど知られていない。実際彼らは、マスク氏が掲げる斬新なコンセプトを形にすべく、日々時間を惜しんで技術開発に取り組んでいる。だから、メディアに顔を出す機会に乏しいのは当然だ。
そうした意味では、セダンタイプのEV「Model S(モデルS)」の発売に当たって、2012年6月下旬にサンフランシスコ郊外にある新工場で開催されたイベントにテスラの開発陣が集合したのは大きなニュースだ(関連記事)。晴れやかな顔で念願の市販車の工場出荷に立ち会っていた、CTO(最高技術責任者)のJB Straubel(ジェービー・ストローベル)氏に、「一段落ついてホッとしたのではないか」と水を向けると、エンジニアらしい真摯(しんし)な答えが返ってきた。
「開発だけを担当しているわけではありません。CTOとして新工場を軌道に載せて、モデルSを完璧にするために注力しています。もちろん、次世代EVの『Model X(モデルX)』の開発も始めています」(ストローベル氏)
2003年の創業以来、華やかな話題を提供してきたテスラだが、量産車を安定的に出荷する自動車メーカーとしては捉えられていなかった。創業から数年間は何の製品も量産していなかったし、最初の市販車である「ロードスター」を発売した後も、顧客の手元に送り届けられるまで約1年の時間を要した。ハリウッドスターたちが購入したことで大きな話題を提供したが、トータルでの生産台数が2000台を越える程度では「量産車」とは言いがたい。
だからこそ、モデルSの量産が始まったことは、長年テスラの技術部門を統括してきたストローベル氏にとって大きな喜びに違いない。同時に、2012年末までに5000台、2013年以降は年間2万台を生産する予定のモデルSの生産開始は、同社にとってEVベンチャーから自動車メーカーに飛躍できるか否かの重要な鍵を握っている。技術部門のトップとして、生産が始まった段階ではまだまだ気が抜けないのも当然だ。
「私たちが生産するのは、エコカーではなく、プレミアムカーです。モデルSは、大きなトルクを後輪に伝えて走行し、素晴らしいパフォーマンスを発揮します。常にベストな技術を探してきた結果として、モデルSという形で世に送り出されたということです。だからこそ、走行性能の点でも一切の妥協はしませんでした。416ps(仏馬力)/600Nmの大出力(パフォーマンス・キット装着車)を発揮する誘導モーターと高性能のインバータを組み合わせたパワートレインは、ハイパフォーマンスを生み出します。リチウムイオン電池モジュールを堅牢なアルミ製シャシーの中に配置し、低重心にすることで走行性能を高めました」(ストローベル氏)
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