電気自動車(EV)にはさまざまな課題が残っている。ガソリン車で実現できていた性能、仕様をEVで達成できないことも多い。EV技術を採用したスポーツカー「Tesla Roadster」を作り上げたTesla MotorsでDirector, Battery Technologyを務めるカート・ケルティ(Kurt Kelty)氏にEVの電池技術について聞いた。
米Tesla Motors(テスラ)は、高性能なスポーツカー「Tesla Roadster」を電気自動車(EV)として開発し、量産に成功した企業だ(図1)。Tesla Roadsterはあの「ポルシェ」よりも加速が良く、アクセルを踏み込んで3.7秒または3.9秒以内に時速97kmに達する高級スポーツカーだ。最高速度は時速200km。
テスラは2003年に設立されたベンチャー企業だが、既に複数の大手自動車メーカーから技術を評価されている。例えば、2009年5月には独Daimlerがテスラの株式の10%(5000万米ドル分)を取得、EVシステムや二次電池、車両の開発について協力関係を築いた。2010年1月にはパナソニックとEV用電池を共同開発すると発表、2010年5月にはトヨタ自動車と業務提携を結び、5000万米ドルの出資を受けている。EVと部品、生産システム、技術に関する業務提携だ。例えば2012年中に投入を予定するトヨタ自動車「RAV4」のEV版開発に協力する。
このように、テスラはEVを開発、販売するだけでなく、自社開発したさまざまなEV技術を各社に提供している。
電池とモーターを購入すれば誰でもEVを作り上げられるという主張はある意味で正しい。しかし、信頼性の高い量産車を作り上げるなら話は別だ。EVの核となる技術がいまだ発展段階にあるからだ。
今回、テスラでDirector, Battery Technologyを務めるカート・ケルティ(Kurt Kelty)氏(図2)に電話でインタビューする機会を得た。同氏は一貫して電池技術の責任者としてEVに取り組んでいる。Tesla Roadsterの電池技術にはどのような工夫が凝らされているのか、その秘密の一端を語っていただいた。
@IT MONOist(以下MONOist) EVをゼロから作り上げるにあたって、スポーツカー(Tesla Roadster)を選んだのはなぜか。乗用車などと比べて開発が難しいはずだ。
Kelty氏 同僚とは常々、"No Compromise Sport Car"(妥協がないスポーツカー)を作りたいと議論していた。弱点がなく、遠くに自由に出掛けられる車、長い期間使えて、さらにセクシーな車だ。
長距離走行は(米国市場では)必須だった。スポーツカーを選んだのは事業性を考えた判断だ。セダンを選ぶと、1台当たりの利益が減ってしまう。テスラは大企業ではない。セクシーで価値を訴えられる車を高級品として販売しなければならなかった。
MONOist 長距離走行とはどの程度の距離なのか。
Kelty氏 Tesla Roadsterでは、電池を交換せずに10万マイル(16万km)走ることができる車を目指した。販売後3年が経過した車があり、もうすぐ総走行距離が10万マイルに達する*1)。
1充電当たり200マイル(320km)走るようにすれば、電池寿命(充放電)が500サイクルだとして、10万マイルに達する*2)。Tesla Roadsterで採用した電池は1000サイクル以上動作するが、安全をとって500サイクルで仕様を決めた。
*1) Tesla Roadster(とTesla Roadster Sport)の世界市場における累積販売台数は2011年末時点で約2100台。同車種は2500台の限定生産車だ。
*2) 実際にはTesla Roadster(とモーターのトルクを改善したTesla Roadster Sport)の走行距離は394km(カリフォルニア規制基準によるLA4モードとHFEDSモードの複合値)であり、電池寿命は16万km走行または7年間と決めた。なお、2012年中ごろに市場投入を予定する高級セダン「モデルS」は二次電池の搭載量によって3種類に分かれ、それぞれ1充電当たり300マイル(480km)、230マイル、160マイル走行できるようにする予定だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.