タグチメソッドで人を作る、技術を育てる雑談・品質工学 長谷部先生との対話(2)(1/3 ページ)

品質のことばかりに目がいきがちなタグチメソッド。正しく失敗するには? 技術を高めるには? 長谷部先生に平易にひも解いていただいた。

» 2012年07月27日 11時20分 公開
[杉本恭子,@IT MONOist]

 前回、一番基本の機能を知ること、たくさんの失敗から情報を得ることなど、タグチメソッド利用の心構えを分かりやすく解説いただきました。今回は、タグチメソッド独特の「品質」の考え方、技術伝承のための知恵、活用のヒントを中心に伺っていきます。

◇ ◇ ◇

「損失」の考え方

――最近の日本の製品は、アジア諸国では品質が悪いといわれると聞いたことがあります。

長谷部 日本の洗濯機は「これだけ値段が高いのに、芋も洗えないの?」って言われることがあるそうです。「韓国製の洗濯機は芋洗えるよ」って。韓国では社員を現地で生活させて、生活習慣などの情報を収集するそうですね。そうすれば芋を洗う洗濯機を設計するわけですよ。これは品質の良しあしではなくて、どちらかというと「品種」の違いだと思います。品種はカタログで分かる、買うときに分かる、買う人が選べることです。いまは品質が悪いという言われ方をしていますが、品種と品質は別です。

 一方では、同じことができるのに値段が高いと、品質が悪いといわれる。これはある意味で正しいです。

 前回、タグチメソッドでは「お客さま視点の品質」を評価するという話をしました。タグチメソッドでは、品質とは「品物が出荷後に社会に与える損失で評価する」と定義しています。損失が少なければ少ないほど品質がいいという考え方です。

 購入金額は、お客さまの懐から出て行くから、最初の損失です。投資をして、便利を買うわけですね。同じ便利さなのに、たくさん投資をしなきゃならないということは損失が大きい、つまり品質が悪いという評価になります。買った後に修理やメンテナンス、破棄にお金が掛かれば、それも損失。購入してから破棄するまでの全部のコスト、TCO(Total Cost of Ownership)を考えましょうということです。

 お客さまは、購入するときに品種を選びます。同じ品種の製品が幾つかあるなら、安いものの方が品質が良いことになるわけです。

顧客のメリットだけでなくデメリットも引き受けるのが技術力

――購入する時点では、お客さまには購入後に掛かるコストは分からないですよね。

長谷部 破棄するまでに掛かるコスト、つまり品質は、見えないし購入時には分からないから、お客さまは選べない。そこは作る側が責任を持たなきゃいけないんです。厳しいことを言うようですが、本当は「想定外」と言ってはいけないということです。

 私は、技術者とか設計者は「クリエイター」だと思っています。世の中に存在しなかった新しいモノをつくるわけですから、創造主ですよね。創造するのだから、メリットだけでなく、必ずデメリットもあるはず。悪いことや、副作用も想定しなきゃいけません。

――メリットもデメリットも全部引き受けることが技術力ということでしょうか。

長谷部 そういうことができてこそ、日本のモノづくりが生きていけるんでしょう。できなくなったら、安く早く作るところが勝ちですよ。技術力で生きていこうというなら、そこまで考えなきゃいけない。クリエイターとしての責任です。逆に言えば、創造的な仕事だからこそ、面白いんですけどね。

 最終的には、作る人の質が良くなれば、できるモノも良くなるわけです。人を育てない限りは、モノは良くならない。技術者を育成して技術力を付けて、企業の設計能力を高くしていくことが、タグチメソッドの狙いなんです。ツールを使えば、誰でもいい設計ができるといわれることもありますが、それはおかしいでしょ? 技術的に能力の高い人が設計した方がいいはずなんです。それで、タグチメソッドのような考え方をすると、より成功する可能性が高くなる。何を評価すればいいか、どれだけチェックすればいいかは、想像力とセンスで決まるんですから、人を育てなきゃいけない。

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