ITS Japanは2012年3月11日、ITS(高度道路交通システム)の防災活用に向けた会議を開いた。同会議で報告された、ホンダ、千葉国道事務所、国土地理院の東日本大震災における取り組みから、ITSを災害時に役立てるために必要な施策が見えてきた。
地震や台風などの災害に対して、災害当初の救助活動や、その後の復旧と復興を進める上で重要な役割を果たすものの1つに道路網がある。救助に当たる緊急車両の移動から、支援物資を運ぶための物流、ボランティアの派遣に至るまで、道路網がなければ実現できないことは多い。電気、ガス、水道、通信とともに、ライフラインの1つとして認められている。
未曾有の大災害となった東日本大震災では、東北地方から関東地方に至るまで、道路網は広範囲にわたり各所で寸断された。その一方で、通行可能な道路も残っていた。震災後の復旧活動では、早急に救助人員や救援物資を送り届けるためにも、これら通行可能な道路に関する情報が求められていた。
ここで役に立ったのが、ITS(高度道路交通システム)の1つとして知られるプローブ情報を用いた「自動車・通行実績情報マップ」である。ITSの推進団体であるITS Japanが、震災発生から8日後の2011年3月19日に、東北地方への物流を支援することを目的に公開した(関連記事)。プローブ情報とは、移動する自動車を道路交通システム内における1個のプローブ(探針)と見なし、それらの自動車から得られるさまざまな情報のことを指す。代表的なものとして知られているのが、車両の位置情報と走行時の速度データから得られる交通情報である。
この自動車・通行実績情報マップでは、前日の0時〜24時にかけて、ホンダ、パイオニア、トヨタ自動車、日産自動車の4社が取得したプローブ情報を集計し、当日の午前10時に地図データ上で通行実績のあった道路を青色で示した。物流業者がこの情報を活用すれば、目的地まで円滑に走行できる可能性を高められるというわけだ。
ITS Japanは2012年3月11日、東京都内で、自動車・通行実績情報マップをはじめとするITSを活用した災害対策について検討する会議を開催した。会議では、主催のITS Japanをはじめ、ホンダ、国土交通省の地方事務所、国土地理院が、東日本大震災発生時の対応について報告した。
最初に登壇したのは、ホンダでインターナビ事業室室長を務める今井武氏だ。今井氏は、同社のプローブ情報を用いた純正カーナビゲーションシステム(カーナビ)向けサービス「インターナビ・プレミアムクラブ(以下、インターナビ)」の事業責任者である。
インターナビは、2002年のサービス開始以降、渋滞予測をはじめサービス範囲を拡大している。2005年からは、雨や雪、そして地震といった自然現象が交通網に与える影響をユーザーに知らせるサービスも手掛けるようになった。地震関連では、2007年7月に発生した新潟県中越沖地震の際に、防災推進機構と共同でインターナビユーザーのプローブ情報を用いた通行実績情報マップを公開している。これは、通行実績情報マップとしては国内初の取り組みだった。その後、2008年6月の岩手・宮城内陸地震でも、通行実績情報マップを公開している。
東日本大震災の発生時には、それまでの取り組みや提供中のサービスが役立つことになった。地震発生当時に社内で業務中だった今井氏は、「まず、ユーザーのプローブ情報の収集/配信するインターナビサーバーが動作していることを確認した。サーバーが無事だったこともあり、地震発生から5分後の14時51分には津波警報を配信することができた」と語る。
また地震発生の直後には、通行実績情報マップを提供するための準備を始めた。翌日の3月12日10時30分には、通行実績情報マップを地図データ上で利用できるKMZ形式のファイルで公開した。「新潟県中越沖地震の時は、公開までに3日間かかった。ファイル形式もPDFだったので、他のアプリケーションに利用しやすいとは言えなかった。この反省を踏まえて、岩手・宮城内陸地震ではファイル形式をKMZに変更していた」(今井氏)という。
今井氏は、Google日本法人に、Google Maps上に通行実績情報を表示したものを掲載するための働きかけを行っている。3月14日の夕刻からは、Googleの震災被害情報サイト「Google Crisis Response」上に、通行実績情報マップが掲載されるようになった。
こういった機敏な対応が可能だった理由は何か。今井氏は、「インターナビに関する事業判断については経営陣から一任されていた。現場にいる私の判断で通行実績情報マップの公開を決定できたことは、早期対応できた要因の1つになっているだろう」と答えている。
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