電力を変える蓄電システムの底力小寺信良のEnergy Future(12)(2/4 ページ)

» 2012年01月12日 11時20分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]

国内の電力事情悪化に備えるためには

 日本の国内事情を考えれば、太陽光と組み合わせた製品が生まれてきた理由は大体想像がつく。実は世界的に見てもこのような製品には需要がある。例えば欧州ではご存じのように再生可能エネルギーの利用が加速しているが、太陽光・風力といった発電方式は天候に左右される。これらの変動する電力が、送配電網に大規模に流入すると、電力の品質低下、つまり周波数変動や電圧変動が大きくなることが懸念されている。周波数や電圧にシビアな機器が動いている場合は、受け手側で安定化が必要になる。

 米国の場合は、国内に電力会社が3000社以上もあり、送配電網が細かく分かれている。地方に行けば小規模な発電会社もあるわけで、電力が足りない場合は近隣他社から電力を融通してもらうシステムになっている。ところがこの連携が上手くいかないと、突然停電になることもあるという。この場合は停電対策が必要だ。

電気料金値上げはどうなる

 日本の電力状況を振り返ってみよう。日本には大規模な発電用原子炉が54基あるが、そのうち現時点(2012年1月)で稼働しているのは6基。およそ約9割の原発が停止状態にある。既にニュースなどで報じられているが、現在は休止していた火力発電所などを再稼働して凌いでいる状況で、燃料費がかさむことなどから、一部の電力会社では電気料金の値上げが検討されている。

 動きがはっきりしているのが東京電力だ。2012年4月をめどにまずは大企業向け(大口顧客)の料金から、約20%を目安に値上げするとしている。これは一般家庭向けの電気料金改定には、国会審議が必要だからである。まずは国会審議が不要な企業向けからスタートし、早い時期に一般家庭の料金改正も申請するという。

 電力の安定供給には値上げが必要と主張しているが、大企業の反発は必至だろう。さらに一般家庭向けとなると、消費税値上げの議論もあることから、電気料金値上げは難しい。また値上げがあるとするならば、東京電力からではなく小規模な電力事業社から直接電力を購入するという、いわゆる電力の自由化が進むことになる。電気の世界は大きく変わるだろうが、電力の安定供給に不安は残る。

 こうなれば、企業が蓄電設備を自前で持ちたいと思う十分な動機になるだろう。これを見越して国では、2011年度第三次補正予算に幾つかの推進事業を盛り込んでいる。

 経済産業省の資料「エネルギー対策の推進」によれば、「電力需給対策等」として2324億円の補正予算額が付いており、そのうち「定置用リチウムイオン蓄電池導入支援事業費」というかなり具体的な支援策として210億円が計上されている。今回は蓄電池の話なのでこの項目にのみ注目したが、家庭用太陽光発電や自家発電設備に対しての補助金もかなり額が大きく、導入も進むと思われる。ビジネスとして考えるならこの資料には目を通しておいた方がよいだろう。

 一方、災害対策のために公的施設を災害拠点にするという計画が各自治体の間で進められている。具体的に地域のハブとなり得るだけの施設規模を持つのは、学校だ。ここに電力を貯めておいて、災害時に避難民を受け入れたときに供給できる準備をしておくというものである。

 ただやみくもに貯めておいても仕方がないので、体育館の屋根や校舎の屋上に太陽電池を設置し、昼間に蓄電したものを夜に利用する。学校も高校ぐらいになれば冬場は部活動でかなり暗くなるまで生徒が残るし、運動部が強いところであればグラウンドにナイター設備もあるだろう。さらに夜間部も併設しているところでは、夜の授業で照明の他に冷暖房も必要になる。普段はこれらの電力を賄い、緊急時に開放するというわけである。こういうところにも中規模蓄電設備の需要が発生すると、三洋電機では見ている。

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