これからの日本のモノづくりにはTPD(Total Product Design)がカギ。「全社的に」を実践するための役割分担を整理してみた。
前回の文末に記したように、今や3次元CADには含有化学物質の使用量計算機能も実装され、
「ほら、3次元CADで何でもできるんだから、全部設計でやってよ」
こんな言葉が社内のあちこちでささやかれていませんか?
「設計のフロントローディング」という名のもとに設計部門へ仕事を押し付けていませんか?
「これから3次元CADを導入しよう」という状況にある中小モノづくり企業も多くあると思いますが、その企業の開発・設計エンジニアのこんな悲痛な叫び声が聞こえてきそうです。
「3次元CADでフロントローディングっていうけど、今でさえ残業100時間超えなのに、さらに設計の仕事を増やそうっていうのかよ!」
おっしゃる通りですねぇ……。でもそれは「間違ったフロントローディング」なのです。
本来の開発・設計部門の仕事とは何でしょう? 「無」から「有」を生み出す素晴らしくクリエイティブなものだと思います。ですから私は開発・設計部門で頑張っているエンジニアの方々には敬愛の念を持っています。
その「クリエイティビティ」を発揮すべきエンジニアの皆さんの仕事を分析してみると、実際に端末に向かって図面を描いていたり、じっと目をつぶって構想を練っているという「製品開発目的でクリエイティビティを発揮している時間」って30%、いや、20%くらいにしかならないのではないでしょうか。
他部門との調整ミーティング、購買部門への見積もり依頼書作成(せっかく3次元CADで作成してある図面をわざわざ2次元図面でプリントアウト)、製造部門への組み立て指示書作成などなど、「開発・設計」に直接関わらない仕事、驚くほど多くありませんか?
本連載の第2回で述べた「後ろ向きの環境配慮」もエンジニアにはやらせたくないですねぇ。私は彼らの「クリエイティビティ」を発揮する仕事の割合を最低でも70%、できれば80%まで持っていきたいのです。
そのためにはどうしたら良いのでしょうか?
ここで1960年代半ばから製造業を中心に導入され、Made in Japanの質の良さを全世界に広めたTQC(Total Quality Control:総合的品質管理)について触れましょう。
TQCは時に「全社的品質管理」とも言われ、混同されますが、こちらは正しくはCWQC(Company-Wide Quality Control)です。
え? どう違うのかって?
後者は「社員全員で品質管理活動をしましょうね。ハイ、まずはQCサークル活動でもしましょうか」というアレですね。一方の前者は「会社の全ての部門が品質を向上するために協業すること」です。
TQCは現在ではTQM(Total Quality Management)と名を変えていますが、これはTQCが社員の活動ではなく、組織の協業を指すのですから、マネジメント活動そのものであり、当然だと思います。
TQC、そしてTQMが日本製品の質を飛躍的に向上させ、Made in Japanが世界に名をとどろかせた時代はご存じのように終わりを迎えました。筆者はこれからの日本のモノづくりにはTPD(Total Product Design)がカギになると考えています。
1990年代後半に世に出たミッドレンジ3次元CADは、コンピュータの性能向上と価格低下も手伝い、以来、モノづくりの世界に急速に普及し続けています。そして、CAD自体の機能強化、CAEやPDMとの連動など、ツールはワクワクするような進化を続けていくことでしょう。そのツールの進化を実際の「モノづくり」の進化に結び付けなければ、「ゴルフクラブは毎年のように最新モデルに買い替えるのに、いつまでたっても100を切れないお金持ちアマチュアゴルファー」のようなものですよねぇ(もし思い当たる方がいらしたとしても、決してあなたのことではありませんよ!)。
「図面を描く」ことは決して“目的”ではありません。エンジニアが頭の中に描いたものを、実際の製品にするための表現の手段、すなわちツールに過ぎません。
表現の手段なら分かりやすい3次元CADの方がいいに決まっているわけで*、誰もが分かりやすいアニメーションのような図面、無償ビュワーを活用すれば設計部門以外でもわざわざ設計者に聞いたり、資料を求めなくても情報を得られる強力なコミュニケーションツールでもあるのです。
*「三面図を読めなきゃモノづくり企業で働く資格はないよ」なんていっている頭の固い「反3次元CAD抵抗勢力」の方々は即刻退場、後進に道を譲りましょう;)。
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