畑山氏によれば、発想の転換が必要だったのだという。「自動車のデザイナーが通常、何に範を求めているかというと、陸上動物である。例えば、チーターの肩の筋肉の盛り上がりを、ホイールの上にかぶせるブリスターの形状に採用したり、獲物を狙うときに後ろにタメを持っているような車体の形である。これがこれまでのスポーツカーや自動車の通常のプロポーションだった」。
こうした形状では力任せに空気を切って走ることになる。「レーシングカーの多くはCd値が非常に悪い」(畑山氏)。
そこでアプローチを変えた。空気を切る代わりに、水の流れを身にまとう川魚のような、そのような解を求めて、車の形を変えていった(図4)。Cd値を下げる取り組みの中で、サイドミラーの面積を減らし、後輪にかぶさるリアスパッツの形状も工夫していき、結果として0.19を達成した。
SIM-LEIが採用したコンポーネントビルトイン式フレームも、Cd値引き下げに役立った。「ガソリン車であれば排気管やドライブシャフトが走っており、底面はでこぼこしている。SIM-LEIは平らだ」(図5)。
デザインチームに求められていたもう1つの課題がアイコニックデザインだ。SIM-LEIならではの技術をどう見せるか、見える化するためのデザインである。
「SIM-LEIはEVだが、エンジンがないことが特長ではない。床下に全てのコンポーネントを配置(コンポーネントビルトイン式フレーム)し、モーターはタイヤに入れてしまう(インホイールモーター)ことが特長だ」(畑山氏)。
このような特長を見せ付けるのが、他社のEVと設計が異なることで生まれた全ての空間をキャビンスペースとして使うインテリアデザインなのだという。
エンジンがないため、ファイアウォールを前方に押し出し、前席と後席の前後間隔を長くとった。「2クラス上の車と同等のキャビンスペースが確保できた」(畑山氏)。さらに空いたエンジンスペースを19インチ型モニターを配置するスペースに転用した。このモニターはエンターテインメント用途に使えるだけではなく、リアビューモニターなどにも利用できる(図6)。
以上のようなインテリアデザインにより、大人が4人ゆったりと乗車でき、ゴルフバックも積める車内空間を実現できたという(図7)。
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