東京電力管内では夏季の13時〜16時に1000万kWもの電力が不足する見込みだ。大規模な計画停電を実施することなく、電力不足に対応する方策を化学工学会が示した。省エネよりも電力需要の時間・空間シフトが有効だという。
化学工学会は、「大震災による東日本の電力不足に関する緊急提言」を発表した(発表資料)。2011年の夏季に不足するとみられている首都圏の電力問題を解決する提言である。
大規模計画停電回避のための方策の協調的実施の他、電力需要データの開示と電力供給中期見直しの提示という3点からなる。
2011年3月11日に発生した東日本大震災により、東京電力管内の発電所や変電所に多大な被害が起きた。3月14日から始まった計画停電(輪番停電)は、節電の効果や気温の上昇により、5月にはいったん収束する見通しだ。しかし、電力需要が最大となる夏季には大規模な計画停電が避けられそうもない。
3月15日の需給予測では400万kWの電力不足を5グループが各3時間40分ずつ停電することで乗り切った。これまでの電力需要の記録から、電力に対する需要が最も高まる夏季の13時〜16時には、約1000万kWの電力が不足すると予想されている。3月時点の停電時間や規模を約2倍に増やさなければ対応できない。これでは、企業の生産や家庭などに多大な負担が生じてしまう。
そこで、化学工学会は、「電力供給の積み増し」、「省エネ努力」、「電力需要の時間的および空間的なシフト」の3点で、どのような工夫がどの程度の効果を発揮するか会員アンケートを実施し、換算電力を試算した。その結果、電力需要の時間的、空間的なシフトが最も有効だという結論に達した(図1)。
東京電力が夏季までに用意する最大電力供給量は約4700万kWである。電力供給の積み増しとして約365万kWが可能であり、省エネ努力で消費電力を約280万kW削減できると試算した。一方、電力需要の時間的、空間的なシフトでは約765万kWの削減が可能だという。3つの方策を組み合わせることで、ピーク需要6000万kWに対応可能であると予測した。東京電力が予測した2011年夏季のピーク需要は5500万kWであるため、計画停電を実行しなくても対応できることになる。
電力需要の時間的、空間的なシフトは、ピーク需要を引き下げるための方策だ。ピーク需要は13時〜16時に起こる。このため、夜間の店舗営業を大規模に取りやめたとしても、ピーク需要抑制にはつながらない。
化学工学会はピーク需要低減に役立つ3種類の時間的シフト策を挙げている。第1に、休日のシフトだ。各産業界の協力を得て、土日の休日を夏季期間に限って平日に分散させることで、270万〜320万kWの削減効果が得られるという。第2の策は勤務時間のシフトだ。工場など交代勤務を採っている職場で、200万人を夜勤に切り替えることで、約300万kWを削減できるという。第3に昼休みの時間帯を2〜3時間に延長する勤務シフトを組むことで約100万kWの需要をシフトできると主張する。
空間的なシフト策としては、サーバ類の西日本や北海道への移転(30万kW削減)、異動による居住地変更(100万人の場合、100万kW)、国内留学制度などの推奨(10万人の場合、10万kW)、首都圏以外への観光誘導(5万kW)などを挙げている。
なお、電力供給の積み増しでは、防災用自家発電装置をピーク時に稼働させることで300万kWを得られると計算した。次に大きいのが太陽光発電の推進策を採ることで得られる50万kWである。
省エネ努力では、旧式冷蔵庫の買い換え促進で60万kW、旧式エアコンの買い換え促進で50万kW、電気ヒートポンプのガス化で40万kW、テレビ視聴の停止で40万kWを削減できると試算した。
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