しかし日本は変わらざるを得ない。本来、数十年単位で軌道修正をかけていけばよかったエネルギー政策の路線変更を、今すぐに始めなければならなくなってしまった。これは原子力発電所容認派も、反対派も、同じ意見ではないだろうか。どのような方向に行くにしろ、低排出での電力確保は難しくなったのだから。
幸か不幸か、資源エネルギー庁の統計によると2005年をピークに日本の電力消費は頭打ちとなり、リーマンショック後には大幅に電力消費が落ち込んだ。一般に経済活動と電力消費は比例関係にあるため、さらに落ち込む可能性もある。だが、それでも東京電力管轄地区では今回の原子力発電事故によって、数年に渡る慢性的な電力不足が発生すると予想されている。
さらには九州でも、定期検査で停止中だった九州電力・玄海原子力発電所の原子炉(2号機と3号機)を、当面は再稼働させないとのニュースが流れており、真夏には関東や東北と同じように計画停電が実施される可能性があるという。この九州電力の判断は、他の原子力発電所にも伝搬する可能性がある。停止中の原子炉を動かすには、電力会社自身の判断だけでなく、国と自治体、両方の許可が必要になる。冬の間に保守に入っている原子炉を、どこまで動かせるかは、おそらく今のところ誰も把握できていないはずだ。
当然ながら、電力不足は活動の萎縮や企業の生産活動に影響するが、言い換えれば、これまでの社会システムでは存在しなかった巨大なニーズが、今この瞬間に生まれようとしている事だろう。
オイルショック以降、日本では“省エネルギー”を国を挙げて推進し、エネルギー効率のよい社会システムを作り上げてきた。その省エネルギー技術は、地球温暖化が注目されるようになって以降、排出制限目標という意味では苦しめている半面、技術面ではプラスへと転換できている面も少なくない。
今回は電力ショックであり、今までのような単純な省エネルギーだけでは解決できない難しさがある。おそらく、今回のような国難がなければ、誰も本気にならなかっただろう。だが、国難はやってきた。ここで電力消費のピークを上手に処理するエネルギー消費の平準化を行ったり、あるいは送電効率化などに国を取り上げ、節電立国として立ち直ることができれば、今の危機を未来のチャンスにつなげることができる。
こういう時期だからこそあえて書くが、今から急に方向転換をしても、あるいは自分たちの幸せには直接は反映されないかもしれない。しかし、子供たちが10年後に大人になる時、幸せになるための工夫はできるのではないだろうか。
ただし、悲壮感は無用だ。限られた電力の中で、最大限に社会に、家庭にエンターテインメントを届けるために何ができるのかを、タブーを排除して考えなければならない。以前から日本の製造業を取材しながら、常にどこか違和感を感じることがあった。
それは技術やノウハウをどう使うかばかりに目が行き、市場ニーズがおざなりになっているケースが多いことだ。新技術が新たな市場を生み出すことは多いが、それはもともと、そこに潜在的な市場(ニーズ)があるからに他ならない。考え方の順番が違う事は明白だが、その明白な事さえも無視されている事が少なくない。
しかし、今回の目標は誰の目にも明らかで、多くの人が自分自身のために必要としているものだ。10年後に子供たちが笑える日本を作るために、何ができるかを自らに問いたい。
本田 雅一(ほんだ まさかず)
1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。
Twitterアカウントは@rokuzouhonda
近著:「インサイド・ドキュメント“3D世界規格を作れ”」(小学館)
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