安全率が、非常に低い――航空機【1分で分かる】業界別 CAE技術動向

飛行機の安全率は、とても低いことをご存じ? その分は、メンテナンスやシステムでカバーしている。追い込んだ設計が肝心となる航空機設計の事情

» 2011年01月19日 11時00分 公開
[小林由美MONOist]

 航空機の安全率は、結構低い。例えば、一般的な機械では安全率が「3〜4」とされることが多いところ、航空機はたいてい「1.5」程度、とギリギリである。

 安全率を優先して頑丈にしてしまえば、それなりの重量になってしまうので、燃料効率の面でも非常に不利になり、そもそも“航空”機なのに飛行できなくなってしまう。つまり、「重量」と「安全率」のトレードオフになるのだが、ここでは「重量」の優先順位を高めているということになる。

 しかし、大勢の人の命を預かる航空機の安全率が、こんなに低くていいものなのか。ときに「世界一安全な乗り物」ともいわれる航空機の安全性は、メンテナンスやシステムでカバーしているのである。航空機は、整備エンジニアに、それぞれ専用の整備工具ボックスを持たせている。また整備の順番や部品の組み付けなども非常に厳密に規定され、マニュアル化されている。

photo Windchill(米PTC社)のビューアー機能によるエアバス社製航空機の3次元データ

航空/宇宙業界の解析事情

 アポロ計画もCAEがなければ進まなかった――航空・宇宙業界ではそういわれるぐらい、解析は重要視されている。

 航空・宇宙分野は、地上の実験で再現し切れない(あるいは不可能な)極限状態を考慮しながら、高い信頼性も保証しなければならないことから、CAEによる詳細な解析が必須となる。未知の空間を飛び、人間を月に運ぶ乗り物を作りだしたのは、まぎれもなく、CAEの計算精度があってのこと。ちなみにアポロ13号の安全率は、「1.07」だったという。

 航空・宇宙分野は、CAEの技術が最も高度に進んでいる分野であり、かつてのSDRC社のジャック・レモン氏がCAEという概念を提唱する以前から、コンピュータによる技術計算(計算力学)への取り組みが進められてきた。またアメリカのNASAでも、1960年代から構造解析プログラムの独自開発を行っていた。研究分野だけではなく、ボーイング社など民間企業においても1950〜70年代から技術計算を導入しているケースも見られる。

 航空・宇宙業界における金属疲労解析は、現状の技術では、実物大の実物で検証するしかないという。もちろんそこで、CAEが活躍するところではあるが、それを裏付けるための詳細な実験は欠かせないものとなる。

 また同業界は、いち早く最適化設計に取り組んでいる分野でもある。特に燃焼機構の開発では、流体解析だけではなく、構造や制御、振動、環境などさまざまな要因が複雑に絡み、それぞれがトレードオフしながら性能が決まるため、最適化設計は重要となる。

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