光ディスク技術において、最も本質的なこととは何か。ROM型メディアを使った映画など映像ソフトの販売に、Blu-ray Discが多く使われているという例を挙げるまでもなく、光ディスクの善し悪しの本質は容量にある。
容れ物(いれもの)が大きくなればより多くの情報を詰め込める。小さな容れ物に高度な技術と根気でピッタリと詰め込めば、同じ量の情報を小さな容れ物にも入れることが可能かもしれない。だが、いうまでもなく、より大きな容れ物に対して高度な技術と根気をもって、ピッタリすき間なくものを詰め込む方が多くの情報を入れることができる。
より多くの情報を詰め込みたいのであれば、ディスク容量を増やすのが最も良いということだ。
光ディスクのフォーマット戦争の経緯や顛末(てんまつ)に関しては、大まかな部分を小学館の「インサイド・ドキュメント“3D世界規格を作れ!”」という本にまとめてあるので、機会があれば手に取っていただきたい。今回は別の主題があるので、ここでは深く入り込まないようにする。
ここでいいたいのは、自分が欲しいと思うような製品作りをしているか否かである。HD DVDは映画スタジオにとって、Blu-ray Discに比べて効率よく利益を挙げられる新規格だった。しかし、東芝のエンジニアは、HD DVD向けの映画ソフトが、Blu-ray Disc向けの映画ソフトよりも良いソフトになると、本当に考えていたのだろうか? おそらくノーだろう。
商品を開発する方々だけでなく、研究開発に携わっている方々にも問いたいのは、本当にそれが自分の作りたいものなのか? ということだ。おそらく目標は会社から与えられるだろう。しかし、与えられた目標を達成するだけでは充足感は得られない。ましてや、多くの人が目を輝かせながら見つめるような画期的製品は生まれてこない。
最もその商品をよく知る人物として、購入者に何を伝えたいかを考えてみてほしい。本当にあなたは自分の作った製品を購入し、誰にでも勧めることができるだろうか。もちろんイエスという人がほとんどだろうが、意外に「自分自身が欲しいものを!」と高い目標を設定してエネルギッシュに開発をする方は少ない。
最もその商品の本質を知るエンジニア自身が、商品そのものの魅力について想像力を働かせることができるようになれば、きっと製品はどんどん良くなっていく。
次回からは具体的な事例を挙げながら、連載を続けていくことにしたい。
本田雅一(ほんだ まさかず)
1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。
Twitterアカウントは@rokuzouhonda
近著:「インサイド・ドキュメント“3D世界規格を作れ”」(小学館)
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