早速、表組みを作成します。確認したいのは、ウェルドライン発生に関する要因です。例えば、充填パターンを乱す主原因は、薄肉部の肉厚なのか、それとも樹脂の温度の低下なのかを探ってみましょう。この2つの傾向が大まかにでも把握できれば、おのずと対応策も見えてくるはず。そこで表組みの縦軸に肉厚を取り、横軸に樹脂温度を設定しました。そして、肉厚は基準となる1.0mmから1.3mm、1.6mmと0.3mm刻みで厚くしていき、樹脂温度は基準300度を中心に320度、280度と、上下40度の幅を取るようにしました(図C)。
では、前項で設定した条件に基づき、早速解析を進めていきましょう。まず、凹部の肉厚が1.0mmのモデルを使って、樹脂温度を高温(320度)、基準温(300度)、低温(280度)と3パターンでシミュレーションしてみます(図D)。
結果はご覧のとおり、この肉厚1.0mmのままでは、樹脂温度を基準温度より高めても、複雑なウェルドラインが消える気配(図D上段)はありません。充填解析を見てみると(図D下段)、やはり樹脂温度にかかわりなく充填パターンは乱れたままで、改善された様子はありません。
次は凹部の肉厚を1.3mmにしてみましょう(図E)。
しかしウェルドラインははっきり残り(図E上段)、樹脂温度にかかわりなく充填パターンにも大きな変化はありません(図E下段)。最後は、マトリクスに準備した最厚の1.6mmまで凹部の肉厚を厚くしたモデルです(図F)。
見ると、この厚さでは300度から320度まで樹脂温度では、複雑なウェルドラインが一気に解消されました。
以上の結果を基に表組みを埋めていきます。図Gがウェルドラインの有無に関する検証のマトリクスです。
図Gより、複雑なウェルドライン発生を抑えるには、凹部の肉厚は1.6mm以上の厚みを持たせ、樹脂温度は300度以上が望ましいことが分かります。
また、図Hの樹脂温度低下に関するマトリクスによると、厚さ1.3mm以下で樹脂温度280度以下になると、薄肉部の樹脂温度が著しく低下し、成形性に問題が生まれるようです。
以上から、肉厚1.6mmをこのモデルの設計値とすることで、高い設計品質を実現できると判明しました。
このように温度と肉厚、圧力などが複雑に絡み合う樹脂成形も、条件を変えながら解析を繰り返し、マトリクスにまとめることで、目指すべき方向性を見いだせることが分かります。中には、解析を使わずに方向を見いだす熟練者の成形技能士もいますが、彼らは部品の肉厚変更(設計変更)は行えず、樹脂温度や圧力など限られた手立てしか持っていません。そして、その少ない手段で安定した生産を行うには、やはり最適化された設計品質の高い形状が望ましいのです。設計者が解析を用いて事前検討すべきであるのはそのためです。そして、それさえ行えば、熟練者の成形技能士や金型技術者とも対等に言葉を交わし、検討を行えるはず。――それこそが「解析を上手に使う」ということなのです。
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機械設計者のための樹脂流動解析入門はこれにて完結です。ご愛読ありがとうございました。(編集部)
執筆・構成:柳井 完司(やない かんじ)
1958年生まれ。コピーライター、ライター。建築・製造系のCAD、CG関連の記事を中心に執筆する(雑誌『建築知識』『My home+』(ともにエクスナレッジ社)など)。
監修・資料提供:オートデスク マーケティング 笹谷 一志(ささや かずし)
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