最後に、現実の設計工程における連成の活用事例を1つ紹介しましょう。図Fをご覧ください。
あるオフィスチェア脚部のモデルです。図はヒトデ型の脚部の天地をひっくり返した状態ですね。この脚部モデルによる従来製品は、成形品質や強度は十分でしたが、重量が1654gとやや重かったので、もっと軽量化した新製品を開発することになりました。もちろん成形品質や強度は現状品と同等、もしくはそれ以上が大前提。具体的な設計基準は現状の製品に準じ、5本の脚面の平面度は1mm以内、強度は最大変形値を2.87mm以内としました(図G)。
また強度を確保するために、樹脂材料は繊維入りのPP(ポリプロピレン)を選択しました。軽量化した新製品の第1案は、脚部裏面のリブの形状変更とリブの薄肉化で、現状製品の体積を28.4%も削減しようというもの。図Hをご覧ください。
上が現状製品で下が新製品第1案のモデルです。ひと目で分かるほどリブが減り薄肉化していますね。しかし、これだけ形状を変えてしまうと、強度面が心配です。構造解析で確かめると(図I)、最大変形が4.31mmとなり現状製品の最大変位量(2.87mm)を上回ってしまいました。これでは採用できません。
続く第2案は、減らしたリブはそのままにリブを高くして強度を確保しようという案です。図Jをご覧ください。
上が第1案で下が第2案です。リブを高くしたため体積削減は18.4%減にとどまりましたが、解析すると最大変形量も2.19mmと、現状の変位量以下に抑えられています。残るは成形品質です。現状製品に基づく基準は、外観に目立つウェルドラインやヒケがなく、5本の脚面の平面度1mm以内であること。充填(てん)解析で充填パターンを確認すると、裏側は高いリブまできれいに充填されましたが、5本の脚の先端部(図K)でウェルドが発生してしまいました。
目立つ外観部であり、キャスターの受け口が付いた力の掛かる部分だけにウェルドは大問題。残念ながら設計案2もNGです。
この案2を改善したのが第3案です。要は5つの脚先端部のウェルドを消せば良いのですから、この先端部の肉厚を変更して充填パターンを改善しました(図L)。
結果、ウェルドラインはきれいに消え、脚面の変位も公差以下に押えられました。ヒケの品質など現状製品以上に改善されています。では強度はどうでしょうか。再び構造解析に戻って解析してみると最大変形値は2.23mmで、これも設計基準をクリアしています(図M)。どうやらこの案で行けそうですね。現実にこの設計案3が製品化されました。
繰り返し説明したとおり、樹脂成形品の構造解析には、その成形過程の考慮が欠かせません。特にこのオフィスチェア脚部の事例では、必要に応じて構造解析と樹脂流動解析を組み合わせる連成をフルに活用して、設計を進めていきました。そうやって、成形上の問題の有無を検討しながら、トータルな形で設計を進めることで、目的に合致した形状を見つけ出すことができたのです。もちろん、だからといって連成などの複雑な解析作業をすべて設計者が行う必要はありません。大切なのは“その知識”を持っていること、そして個々のケースでどの手法が有効か確実に判断することです。それが「設計者の連成解析活用法」。それさえできれば、解析作業自体は専任担当者任せでも構わないのです。
執筆・構成:柳井 完司(やない かんじ)
1958年生まれ。コピーライター、ライター。建築・製造系のCAD、CG関連の記事を中心に執筆する(雑誌『建築知識』『My home+』(ともにエクスナレッジ社)など)。
監修・資料提供:オートデスク マーケティング 笹谷 一志(ささや かずし)
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