ここからは、この2つの課題に対して、なぜタグチメソッドの考え方が有効なのか、理由を説明していきます。
説明を始める前に、注意点があります。タグチメソッドの基本思想を理解するには、少しコツが必要です。単にツールとしての手順を覚えるのでなく、なぜそうしなければならないかを理解しないと、タグチメソッドの本質を見失ってしまうからです。
少し回りくどくなりますが、タグチメソッドで用いられるツールの背景にある基本的な考え方を先に説明しましょう。
従来の手法から頭を切り替えるためにも、タグチメソッドの原則を理解できれば、その後は楽になります。原則を理解することは、読者の皆さんの品質に関するパラダイムを変更することです。
タグチメソッドの第1原則:原因追究の科学的思考を捨て去ること
既知の事実から未知の現象を予測することは、普通の人間では困難です。専門の科学者が長い時間をかけて初めて可能になる作業です。従って、既知の不具合項目を解析し、その結果から未知の不具合現象を予測する方法は、あまり有効でないと思います。
ですから、既知の不具合から未知の問題を見つけようとする方法はきっぱりとやめましょう。その代わり、理想状態を追求する考え方に切り替えるのです。理想状態とは、一番不具合現象が少ない状態を考えることです。
これが1つ目の原則です。すでに説明したように、QCから進化したTQMの基本的な考え方が理想状態の追求だったことを思い出せば、この原則は素直に受け入れられると思います。
具体的には、個別の不具合現象を取り上げて、その原因を追究することはやめることです。目の前の不具合は、たまたま出現しただけなのです。そんな偶然の現象に目を奪われず、本来はどうあるべきかを考える方が、もっと大切ではないでしょうか。
とはいえ、この第1の原則を通過するのは、意外に難しいかもしれません。なぜなら、不具合問題を解析し原因を解明し対策を検討する、という科学的手法に多くの人が慣れてきたからです。従来のこのやり方は、目前の問題点の解決には大変に有効ですから、その有効なやり方を止めようという提案に、素直に納得できない人も多いでしょう。
そうした方は、ぜひ技術の目的を考えてみてください。技術の目的はモノづくりです。モノづくりは科学とは違います。理論の解明が目的ではありません。モノづくりには、理論より具体的な手段の創造が必要とされます。手段の創造には、理論追究の科学的思考法が妨げになる場合も少なくないのです。
次々と生産される製品の品質を観察し、問題解決をしながら製造工程を維持管理するには、確かに科学的分析法は有効です。しかし、未経験の現象に対する新しい手段を創造する開発設計工程では別です。理論の追究でなく、理想を追求する技術的方法論が必要なのです。QCからTQMへの進化には、科学的思考法に加えて技術的思考方法も身に付ける必要があるのです。
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