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タグチメソッドにおける「未然防止」への戦略って?本質から分かるタグチメソッド(2)(4/5 ページ)

» 2010年08月30日 00時00分 公開

バラツキを活用すること

 次はデータに対する考え方です。

 データを見るとき、わたしたちは平均値とバラツキに注目すると思います。特に平均値が狙いの値からズレていると大変気にします。バラツキとは本来邪魔なものだから、できるだけ少ない方がいいと考えるのではないでしょうか。

 では、本当に重要な情報はどちらでしょう? 実はタグチメソッドではバラツキのデータが重要なのです。

 なぜそういえるのでしょうか? 理由はバラツキの原因を考えれば分かります。例えば、同じ動作を複数回行ったとき、そのデータには必ずバラツキがあります。しかし、なぜバラつくのでしょうか? 同じ動作を行えば、同じ結果になるはずです。

 バラツキが生じる原因は、動作の繰り返しがまったく同じではないからです。同じ動作と思っていても、正確には同じではないのです。目に見えないわずかな違いが、データのバラツキに表れているのです。

 つまり動作のバラツキ(原因のバラツキ)が、データのバラツキになっているのです。バラツキのデータには、バラツキの原因に関する情報が含まれているからこそ重要なのです。

 データのバラツキの大きさを探れば、寄与の大きな原因を探すことができます。品質の定義を応用すれば、悪さの逆数つまり1/σ(標準偏差の逆数)が重要な情報となります。

タグチメソッドの第3原則:バラツキを活用すること


 この原則は、比較的容易に通過できると思います。なぜなら、品質管理や問題解決手法でも、ばらつきに着目します。比較的多くの人がこの考え方に慣れていると思います。


編集注:標準偏差とは、データがバラついている広さを示しており、その逆数はデータがどのくらい集中しているかを表現します。標準偏差が大きいことは、ばらついて品質の悪い製品を意味しますので、分かりにくい。標準偏差の逆数なら、品質の悪い製品では値が小さくなりますから分かりやすいのです。


SN比の考え方に慣れること

 さて、いよいよSN比です。

 SN比とはシグナルとノイズの比のことで、ロバスト性の指標として用いられます。タグチメソッドにおける「シグナル」には、欲しい性能、必要としている機能が相当します。そして「ノイズ」には、シグナルを乱す好ましくない因子が相当します。

 SN比とは、もともと通信工学などで、信号に対してどれだけ雑音が含まれるかを図るための指標として用いられる言葉です。SN比が高ければ雑音が少ない品質の良い通信、SN比が小さければ雑音の多い品質の悪い通信と考えられます。

タグチメソッドの第4原則:SN比の考え方に慣れること


 ノイズ因子は、タグチメソッドにとって非常に重要な概念なので、別項であらためて解説します。ここでは、環境温度や電圧変動など製品の機能を乱す原因と考えて読み進めてください。

 SN比では、バラツキデータを少し違った形で使います。問題解決手法(科学的分析法)では、原因のバラツキ(温度変動や電圧変動)に対応して結果がバラつくと考えます。ですから、原因の変動を抑えて、結果を改善します。

 例えば、温度変化が大きいときに製造した製品にバラツキが大きいなら、バラツキの原因は温度変化であると考えます。そのうえで、温度範囲を厳しくコントロールして再発防止の対策とします。このように、原因を追究して対策する方法は、製造品質を管理するためには非常に有効な方法です。

 しかし、タグチメソッドでは違う考え方をします。温度を厳しくコントロールして対策することは、無意味だと考えるのです。なぜなら、市場ではどのような温度環境で使われるかが予測できないからです。温度変動などのバラツキ原因を制御することができないのが市場です。これが、タグチメソッドが主張する消費者視点です。

 つまり、製造品質を対象にしているなら、温度を管理して問題対策してもいいですが、消費者品質が対象の場合は、温度を管理してはいけないのです。消費者の視点からの高品質とは、例えば温度変動によって機能がバラつかない製品と考えるべきなのです。温度変動の影響の大きさの尺度として、バラツキを使うのです。それがSN比の基本思想です。

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