オートデスクは今年(2010年)、小さめな小間数でブース出展した。会場の案内図にチェックをし、いざ近づいてみると……、そこに漆黒の箱が。
記者が最初に近づいたのは、出口側だった。そこからでは、中の様子はまったく分からない……。さらに奥へ回ると、入り口があった。もうそこは、ダイレクトにプレゼンテーション会場になっていた。
そこには1台のモニターが置かれ、説明員の方と、数種類の同社製品パンフレットが壁に掛けられているのみだった。ほかのブースのように、デモ用のPCや事例を示したパネルなどは一切なかった。同社スタッフの服装も、全身真っ黒。
黒は同社の新しいイメージカラー。まず今回はそれを来場者に強くイメージを焼き付けてもらおうというもくろみがあった。さらにこの黒箱は、「2001年宇宙の旅」に出てくる謎の人工物「モノリス」もイメージしたという。「まずは、『違和感を覚えた』『何だか分からないけれど、オートデスクが出展しているな』と思ってもらえたら、この試みは成功です(笑)。過去のDMS出展では、当社もPCをたくさん並べて製品デモしていました。しかし、その方法では、私どもの思いをしっかりと伝えるには、切りがありませんでした。だったら、いっそプレゼンテーションだけにしよう! ということになりました」(オートデスク 製造ソリューション 副本部長 塩澤 豊氏)
黒箱内のプレゼンテーションでは、同社の3次元CAD「Autodesk Inventor」、構造解析や樹脂流動など設計者CAEツールといったデジタルプロトタイプ製品一連を紹介した。その中で、新たなソフトウェア連携例も紹介。そのうちの1つ、2010年5月に発表した樹脂流動解析ソフト「Autodesk Moldflow 2011」は、ビジュアライゼーションツール「Autodesk Showcase 2011」と連携が図れ、樹脂流動解析とレンダリングのデータを組み合わせることが可能。例えばヒケが出た体裁面にシボを掛けた場合にどのような体裁となるかCGでリアルに再現できる。
同社の説明にはPLMやPDMという言葉は、一切出てこない。「(いまの3次元CADの業界において)『デジタルプロトタイプ』という言葉は、PLMやPDMという言葉の影に隠れつつあります。当社では、あえてそこに光を当てています。デジタルプロトタイプは20年ぐらい前からあった仕組みですが、かつては大手企業が高額を投資しなければ実現できない仕組みでした。当社では廉価で中小企業の方でも手が届くような、現実的なデジタルプロトタイプの製品をお届けします」(塩澤氏)。
機械設計請負や派遣、CADの販売を行うテクノブレインは「ZWCAD 2010」を紹介。しかしこのGUI、どこかで見たことない?
そう、2次元CAD「AutoCAD」。もちろんDWGファイルにも対応している。しかも、価格は「ZWCAD2010 PLUS」で6万5000円。3次元モデリング機能が付いた上位版「ZWCAD2010 PRO」でも、8万円。この価格でさらにアカデミックパックもあり、こちらは1万円(いずれも税別)。ZWCADは、AutoCADのオープンソース技術をベースに、米国の非営利組織IntelliCAD Technology ConsortiumとOpenDWG Allianceが中国の技術者とともに開発した製品だ。低価格の秘密は人件費とオープンソース技術にあった。
富士通は、同社のPLMソリューション各種を展示した。その中の要、2010年末に販売予定の同社の3次元CAD新製品「iCAD V7」は、100万点のアセンブリを0.2秒で表示できるというCADエンジンが自慢。ちなみに、3万6000点の干渉チェックは22秒で完了するとのことだ。前バージョン「ICAD/SX V6」比では、おおよそ半分ぐらいのモデルデータ容量になるという。今回の出展では、同製品をお披露目。
デモで披露したアセンブリの部品点数は20万点、2次元の外寸は8m(8000mm)四方ぐらい。DMS2010での富士通ブースほどの広さだ。これを丸ごとコピーして、隣にペーストするという作業が、数秒ほどで行えた。もちろん、それぞれの構成部品は常にアクティブな状態で、形状の単純化や抑制が掛かっていることはない。産業機械設計では、高度な自由曲面の機能はあまり使用されない傾向だと同社はいう。他社CADでは自由曲面の表現力や機能に割かれるパワーを同社CADでは表示能力やデータ軽減へ思い切って費やした。
もう1つの要「iCADデータ衝(しょう)」とは、3次元モデル、2次元図面、アセンブリ、部品属性、仕様など、設計・製造にまつわる情報を一括管理できるデータベース。生産技術や電気・制御設計も、機械設計と共通のデータを参照し、それぞれの部門が並行して作業を進めながらデータ蓄積することができるとのことだ。
通常、産業機械設計の現場では、図面が出図され生産部門の検討が始まると、そこで新たに設計の問題が洗い出され、機械設計や電気制御設計にフィードバックされ工数がかさむこともしばしば。相互にデータをやりとりできるようにデータ変換、あるいは紙+口頭ベースのやりとりになってしまい、双方の伝達ミスや設計への反映漏れなどトラブルも発生する恐れがあった。そこで同社が提案するのが、「デジタル立ち会い」。iCADデータ衝を利用し他部門を巻き込んだデザインレビューや検証を行い、問題を早期に洗い出し、素早くそれを3次元データへ反映させる仕組みだ。例えば、生産段階の実機で検討されがちなハーネスのはい回し(ルーティング)検討も、アセンブリデータ上で3次元データの線を使って行える。
「iCAD V7は(販売前の製品ですが)、当社のお客さんに実際使っていただき、実業務で効果も出していただいています。今回デモした内容は、決して、絵に描いた餅(もち)ではありません。純国産というからには、適当なことはいえません。しっかりと地に足を着け、結果責任を取るべきと思っています」(iCAD 技術部長 大宮 豊広氏)。
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