日本企業の中国進出を支援してきたベンダ企業が見た中国本土の製造業事情とは? 日本企業、中国企業の違いや市場の変化などを事例を交えて紹介していきます。
当社は2000年に中国ビジネスに進出しており、今年で10年になります。この間、日本の製造業は「失われた10年」を経験してきましたが、一方の中国市場では、発展と拡大を続けてきました。当社顧客の要望に後押しされ、中国に法人を置いたのが、5年前のことです。
製造業に特化したソフトウェア製品を開発販売する当社が、中国とかかわるようになってからのこの10年の変遷(へんせん)を、生産スケジューラのメーカーからの視点から紹介したいと思います。
いま、中国市場は、上海万博を控えて従前の日本市場のように、成長を続けています。これからの中国における日系製造業の在り方を考えるとき、従来のビジネス展開の歴史を顧みる必要があると感じます。
本稿で言及する時期は、その形態によって、工場進出の黎明期(2000〜2003年)、工場生産の拡大期(2004〜2007年)、生産の変革期(2008〜2010年)の3つに分けられます。本稿ではこの分類を基に解説していきます。
日本の製造業が中国に進出し始めた時期は、20年ほど前までさかのぼります。ただし、実際には、世界的な不況を受けて安い労働力を求めて工場の進出が本格化したのは、10年ほど前からだといえます。
当時、当社製品は、日本国内の工場から生産設備の移管とともに中国に進出していました。このため、中国進出にかかわる顧客は主に大企業が中心でした。社内にスケジューラに関するノウハウが蓄積されていることもあり、当社としては特別なサポートをすることもなく、顧客自身がシステムの導入から立ち上げまでを行っていた記憶があります。
この時期、日本の製造業の中国工場は、生産技術の進歩とともに生産量を増大させ、中国での生産や中国からの輸出が大きく拡大した時期といえます。
生産拡大に伴い、生産システムも生産管理システムにとどまらず、当社のような生産計画ソフトへの投資、本国(日本)からの有償支給資材の管理と本国への納期回答への投資というように大きな投資が続きました。
当社システムも前年比倍増というスピードで導入工場数が増加したのです。
中国が「世界の工場」とも呼ばれるようになり、部品の製造だけではなく、完成品の製造を始めるメーカーも現れ始めました。それに伴い、工場に部材を提供するサプライヤの中国進出も進んでいきました。加えて、中国政府が税制を優遇したこともあり、あらゆる製品の製造が中国に集まると思われた時期です。
生産ラインは拡大を続けていますから、実際の工場の中では、生産計画システムは、工程ラインの最適化とともに稼働率を最大限に上げることを目的に、フォワードスケジューリングが行われるパターンが多く見られました。また、日々の生産計画だけでなく、中長期に及ぶ生産設備増強のシミュレーションなどに利用されていました。
しかし、実際に工場団地を視察してみると分かりますが、日本のように一律に工場レベルが向上し、同様のシステムニーズが生まれていたわけではありません。同じ時期に進出してきた工場の中でも、管理面・システム面で大きな隔たりがありました。
というのも、もともと人件費が安いことから「人海戦術」で生産向上を図ろうとしていた製造業が多く、生産拡大期においても、ITシステムを有効に利用して効率を上げている工場は管理面がしっかりしており、「5S」が徹底されていました。逆に、管理面が「お粗末」な工場は、ドンドン生産しているものの、本当にもうかっているのか分からない企業も散見されていたのです。
上の図は、当社代理店(含・上海)であるNECによる日系製造業の発展段階の分類提示ですが、われわれの認識や顧客からのアンケート結果も同様でした。
注1:NEC コンサルティング事業部 マネージャー 加藤 英人氏のコラム「中国進出製造業における課題と解決の方向性」より引用
生産計画システムは、ステージ2から不可欠のものとなりますが、これからの日系工場は、ステージ3以降に進展しないと、中国市場で生き残れないと存じます。当社も、ステージ4への進歩を目指す日本の製造企業のために、サプライチェーン管理部分にフォーカスした製品開発を行っています。
2008年のリーマン・ショック以降、日系製造業の中国工場の役割は大きく変わりました。
世界最大の消費国であるアメリカの購買力が落ちるのに比例して、輸出産業を基本とする日本の製造業は、新しい市場を探さなければならなくなりました。
そこで、まず目に付いたのは、13億人という人口と年2けたの成長を続ける隣国・中国市場でした。
完成品を製造していた企業はもちろん、部品サプライヤも中国国内に仕向け先を見つけてビジネスを継続することに必死になっています。
このような環境下で、われわれの生産システムは、少品種大量生産のフォワードスケジューリングから、多品種小ロットの納期を重視するバックワードスケジューリングへとその姿を変えていくことになりました。
項目 | 過去 | 現在 |
---|---|---|
販売管理システム | 予算と回収管理 | 需要予測と営業管理 |
生産管理システム | 在庫管理と進捗(ちょく)管理 | 原価管理と生産計画重視 |
財務管理システム | 半期決算 | 月次決算・連結会計 |
人事管理システム | 人員管理と教育 | 評価制度と内部統制 |
表1 システム要件の変化 (アスプローバ 上海法人 ユーザーアンケート 2009年結果より) |
進出当時は、あくまで、拡大する工場の全体把握をすることが、第一目的であり、システムの充実と運用の確立に比例して、より戦略的なシステム要件にシフトしつつあります。当社のアンケート対象とさせていだたきました中国での当社ユーザー50社の7割が、日本においては一部上場の大企業です。中堅企業の中には、大企業のシステムを流用することにより一気に高いレベルのシステム要件を確立しようとする傾向がみられます。
大手だけでなく、独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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