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» 2010年02月18日 00時00分 公開

知財戦略を実践すれば事業はうまくいくの!? 知財戦略と経営戦略・事業戦略自社事業を強化する! 知財マネジメントの基礎知識(2)(4/4 ページ)

[野崎篤志/ランドンIP,@IT MONOist]
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知的財産戦略を実践するために必要な機能・要素

 最後に知的財産戦略を実践するために必要な機能・要素について見ていきましょう。

 これまで見てきたとおり、知的財産戦略には実にさまざまな機能や要素が要求されます。知的財産戦略を俯瞰(ふかん)するために、経済産業省が策定した「知財スキル標準」を図3に掲載します(注4)。

注4:知財スキル標準はもともと知財人材育成のために必要とされるスキルを定義したものですが、知的財産戦略のカバーする領域の広さを確認するのに非常に適しているので紹介しました。


項目 現在 将来
戦略(1) 企画・プロデュース(1.1.1) A 企業戦略 企業戦略を企画し、実行を統括する    
B 事業戦略 事業戦略を企画し、実行を統括する    
C 生産戦略 生産戦略を企画し、実行を統括する    
D 販売戦略 販売戦略を企画し、実行を統括する    
E 知財戦略 知財戦略(例:ノウハウか出願かの保護差別化方針、ポートフォリオ戦略、ブランド戦略、外国出願戦略など)を企画し、実行を統括する      
F 研究開発戦略 研究開発戦略を企画し、実行を統括する    
G コンテンツ開発戦略 映画・音楽・出版物などの新しいコンテンツ企画を行い、実行を統括する    
H 標準化戦略 標準化戦略を企画し、実行を統括する    
実行(2) 管理(2.1) 情報(2.1.1) A 情報開示 広報,経営その他、社内への情報発信。「知的資産・経営報告書」案の作成を行い、IRなどを行う    
B 情報収集・分析 企業・事業・製品およびサービスの市場の将来動向を分析するとともに、知的財産戦略に関連する情報を社内外から収集し、分析(例:ポートフォリオ分析)、加工し、知的財産戦略の企画案の作成を行い、実行を支援する      
C システム 知的財産に関連する各種データベース、出願支援システムなどの導入,保守を行う    
人材(2.1.2) A 教育 自社の知財人材育成の企画案の作成を行い、教育を実施する。社内全体の知的財産に関する啓蒙、知的財産担当者の育成などを行う      
B インセンティブ 自社の知財関連人材(特に研究者)に対するインセンティブ制度(例:職務発明制度、報奨金制度、フェロー制度)を企画案の作成を行い、実行する      
法務(2.1.3) A 営業秘密 営業秘密管理指針を企画・提案し、自社の営業秘密の管理を行う    
B 規定 社内規程の企画、提案と順守体制の構築も行う    
C 法的審査 社内における知的財産関連の法律問題について解決するための法的助言・支援を行う。知的財産関連の契約書・規定について法律面のみならず自社の事業活動の側面からも検討した原案作成、修正案の提示、交渉を行う      
D 法令情報収集・分析 法改正、判例の動向に関する情報を収集・分析・加工し、知的財産戦略の企画作成を支援する    
リスクマネジメント(2.1.4) A 係争対応 警告を受けた場合に自社の実施状況の確認、他社特許(著作物)を調査し無効(証拠)資料の確保を図る    
B 他社権利監視 他社権利の監視を行う。パテントクリアランスを行う    
C 他社権利排除 他社権利の排除を行うための無効審判の請求、情報提供などを行う    
D ブランド保全 ドメインネーム、屋号を含めたブランドの維持・適正使用を確保するための管理を行う    
予算(2.1.5) A 策定 事業戦略に応じた知的財産戦略に基いて、出願予算,補償金予算、ラインセスフィーなどに関する予算案を作成する    
B 管理 策定された予算を適切に管理実行し,翌期の予算策定へのフィードバックを行う。ロイヤルティー監査を行う    
C 資金調達 各種資金調達手段(例:信託,証券化等)の取捨選択を行って資金を調達する    
アウトソーシング(2.1.6) A 調査会社 調査会社に業務をアウトソーシングする際の納期,品質,コスト等の管理を行う    
B 特許事務所 特許事務所に業務をアウトソーシングする際の納期,品質,コストの管理を行う    
C 法律事務所 法律事務所に業務をアウトソーシングする際の納期,品質,コスト等の管理を行う    
D 翻訳会社 翻訳会社に業務をアウトソーシングする際の納期,品質,コスト等の管理を行う    
実務(2.2) 調査(2.2.1) A 先行資料 公知例等の先行資料を調査する。他社の権利化を阻止、あるいは他社権利を無効化するための無効資料調査等を行う      
B 他社権利 クリアランスのために他社の権利を調査する    
C パテントマップ 他社の特許情報を収集し、定量的あるいは定性的に加工してパテントマップなどを作成する    
知的創造(2.2.2) A 研究・開発 研究・開発の際に事業戦略・知的財産戦略を意識した研究・開発を行う    
B デザイン開発 事業戦略・知的財産戦略を意識した製品のデザイン開発を行う    
C コンテンツ開発 事業戦略,知的財産戦略を意識したコンテンツの開発を行う    
創造支援(2.2.3) A ブランド創出支援 先行商標調査を行った上での、使用可否の判断。戦略上必要な商標の出願、不出などの評価を行う    
B 発明支援 戦略上必要な発明の発掘、先行技術に関する情報の提供、発明者の確定、発明を営業秘密として管理するか否かの判定、不出等の評価を行う      
C コンテンツ創造支援 必要な権利調査(例:団体間協定の適用の有無、管理楽曲か否かなど)を行ったうえで、権利譲受対価又はライセンス対価の評価基準を作成・設定し、コンテンツ創造に必要な権利処理を支援する      
D デザイン創造支援 デザインマップの作成と先行意匠調査を行ったうえでの、戦略上必要な意匠の出願、不出などの評価を行う    
委託・共同研究(2.2.4) A 研究・開発委託 研究・開発委託、制作委託を行う    
B 共同研究 共同研究を行う    
ブランド保護(2.2.5) A 商標権利化 知的財産戦略に沿った商標の出願書類の作成を行う。意見書、補正書の作成、各国法制度に基づく権利取得ための争訟を行う      
B 事務 出願事務、期限管理、年金管理、資料管理、包袋管理など国内外の商標に関する専門的事務を行う。出願をアウトソーシングしている場合にはその事務所と連携して管理を行う      
技術保護(2.2.6) A 国内特許権利化 知的財産戦略に沿った特許(実用新案を含む)明細書の作成を行う。知的財産戦略に沿い、戦略上必要な特許請求の範囲で特許を取得するための意見書、補正書の作成、拒絶査定不服審判請求、審決取消訴訟を行う      
B 外国特許権利化 知的財産戦略に沿った特許(実用新案を含む)明細書の作成(翻訳)を行う。意見書、補正書の作成、各国法制度に基づく権利取得ための争訟を行う      
C 国内事務 出願事務、期限管理、年金管理、資料管理、包袋管理など国内特許(実用新案を含む)に関する専門的事務を行う。出願をアウトソーシングしている場合にはその事務所と連携して管理を行う      
D 外国事務 外国の法律事務所と連携し、出願事務、期限管理、年金管理、資料管理、包袋管理など外国特許(実用新案を含む)に関する専門的事務を行う。出願をアウトソーシングしている場合にはその事務所と連携して管理を行う      
E 品種登録申請 種苗法に基づいた品種登録を申請する    
コンテンツ保護(2.2.7) A 申請 著作物に関して文化庁への登録申請、著作権管理事業者への申請を行う    
B 事務 契約事務、申請手続、対価の適正な分配などの専門的事務を行う    
デザイン保護(2.2.8) A 意匠権利化 知的財産戦略に沿った出願書類の作成を行う。意見書、補正書の作成、拒絶査定不服審判請求、審決取消訴訟を行う      
B 事務 出願事務、期限管理、年金管理、資料管理、包袋管理など国内外の意匠に関する専門的事務を行う。出願をアウトソーシングしている場合にはその事務所と連携して管理を行う      
契約(2.2.9) A 交渉 契約書原案作成を行い、契約交渉(例:ライセンス、譲渡など)を行う。営業を伴う技術移転の契約交渉を行う    
B 権利処理 著作権・著作隣接権、肖像権、パブリシティ権などに関する権利処理に関する契約交渉を行う    
エンフォースメント(2.2.10) A 侵害判定 他社事業・製品・サービスを分析し、知的財産権侵害の有無を判定する    
B 侵害警告 他社に対して知的財産権の侵害である旨の警告を行い、その回答に対して対応する    
C 国内訴訟 知的財産関連訴訟の遂行、対応を行う    
D 外国訴訟 海外における知的財産権侵害訴訟の遂行、対応を行う    
E 模倣品排除 国内外における模倣品を排除する。税関における水際取締りを行う    
価値評価(2.2.11) A 定量評価 知的財産の価値評価にあたり定量面(価格算出など)を評価する    
B 定性評価 知的財産の価値評価にあたり定性面(技術評価を含み、権利の有効性など)を評価する    
C 棚卸 保有する産業財産権について権利維持・放棄の判断を行う    
知的財産戦略実践に必要な要素(知財スキル標準より)

 戦略の企画・プロデュース面だけではなく、知的財産実務の管理面・実務面まで多種多様な機能・要素が必要です。一部大企業を除けば、すべての要素・機能を自社のみでカバーすることは難しいでしょう。そのためには外部の法律事務所・特許事務所や調査会社・翻訳会社などをうまく利用しながら、知的財産戦略を実践していく必要があります。

◇ ◇ ◇

 以上で第2回は終了です。お疲れさまでした。

 今回は知財戦略の基礎について解説しました。次回は、この知財戦略の実態について統計データやアンケート調査結果など踏まえて解説します。(次回に続く)


筆者紹介

ランドンIP合同会社 野崎篤志(のざき あつし)

1977年新潟県生まれ。
2002年慶応義塾大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻修了(工学修士)。
2010年金沢工業大学院 工学研究科 ビジネスアーキテクト専攻修了(経営情報修士)。
日本技術貿易株式会社・IP総研を経て、現在ランドンIP合同会社シニアディレクター(日本事業統括部長)。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、Webサイトe-Patent Map.nete-Patent Search.netやメールマガジン「特許電子図書館を使った特許検索のコツ」を運営・発行している。
著書に『EXCELを用いたパテントマップ作成・活用ノウハウ』(技術情報協会)、『知的財産戦略教本』(部分執筆、R&Dプランニング)、『欧州特許の調べ方』(編著、情報科学技術協会)、『経営戦略の三位一体を実現するための特許情報分析とパテントマップ作成入門』(発明協会)がある。



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