財務戦略・人事戦略など、ほかもいろいろなオペレーション戦略があります。それにもかかわらず、なぜ知的財産戦略が注目されるのでしょうか?
それは知的財産戦略が、知的財産法(およびその周辺法)という法律を利用して、競合他社に対する競争優位性を構築するための仕組み(戦い方・もうけ方)を考える戦略だからです。
以下では特許を中心に話を進めます。
本来、市場の独占は独占禁止法によって禁じられていますが、特許法では一定期間は特許権によって市場を独占することが許されています。例えば画期的な新製品を開発し特許網を構築した場合、他社に対する法律面での参入障壁を築き上げて、しばらくの間市場を独占することが可能です。市場を自社1社で独占することもできますが、市場規模を積極的に拡大させるために競合他社にライセンス供与して、自社での製品販売で稼ぐと同時に競合他社からライセンス収入を稼ぐこともできます。
また企業の重要な経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報のうち知的財産戦略では、情報をどのように管理していくかというのも重要なポイントになります。例えば新しい製造方法について特許を出願します。出願から1年半後に特許情報は公開されてしまいます。仮に出願しただけで権利化しない場合(登録にならない場合)や、日本で特許出願・権利化したが中国・インドなど海外に出願していない場合など、自社の競争優位性の源である技術情報が特許情報という形で外国企業へ流出してしまい、自由に利用されてしまいます。
知的財産戦略とはモノづくり企業にとって、技術と法律を融合させて自社の競争優位性を構築・維持するための非常に重要かつ難易度の高い戦略です。
日本特許を検索できる特許電子図書館にはどのようなヒトがアクセスしているか知っていますか? 実はアクセスの半分以上は中国・韓国・台湾からだという情報があります。特許出願をして公開されてもいいのか? またはノウハウとして社内に秘匿しておくのか? これも自社の競争優位性確保のために重要な知的財産戦略の1つです。わざわざ特許出願費用を払って、タダで他国の企業に情報をタレ流してしまわないようにしましょう。
知財戦略が重要であることは認識していただけたと思います。そんなに知財戦略が重要なのであれば、知財戦略を実践すればもうかるのでしょうか? 表1に知財戦略実践の有無と、事業が成功しているか否かで2×2のマトリックスを示し、領域AからDまでに属する企業にそれぞれネーミングを付けました。
知財戦略は? |
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実践している |
実践していない |
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事業は? | うまくいっている | 領域A 知財経営企業 |
領域C 知財リスク保有企業 |
うまくいっていない | 領域B 知財重視企業 |
領域D 知財軽視企業 |
領域Aは知財戦略を実践していて、かつ事業がうまくいっている“知財経営企業”です。領域Bは知財戦略を実践しているのにもかかわらず、事業がうまくいっていない企業です。知財を重視しているのですが、経営戦略・事業戦略と十分にリンクできていないため“知財重視企業”です。領域Cは非常に危険なゾーンです。知財戦略を実践していないにもかかわらず事業がうまくいっているケースです。「うちみたいな中小企業が大企業から特許訴訟を受けることはないよ」なんてことをいっていると、突然大企業や見知らぬ企業から警告状が送られてきたりします。特許権者はすぐに訴えることせず、ある程度泳がせておいてもうかるようになったのを確認してから訴えます。事業がうまくいっているのですが、いつ訴訟を起こされるか分からないリスクを抱えているため“知財リスク保有企業”です。領域Dは知財戦略もダメ、事業もうまくいっていないという“知財軽視企業”です。
知財戦略は重要ですが、知財戦略を実践しただけで必ずしももうかるとはいえません。知財重視企業にとどまっている例も多くあります。
戦略・経営手法全般にいえることですが、この戦略を取り入れれば業績が向上するというような魔法の戦略は存在しません。しかし、事業がいくら軌道に乗っていても知財戦略を実践していないのは、自動車保険に加入せずに車を運転しているようなものです。いざ! というときに困らないために、また自社の競争優位性を向上させるためにも知財戦略の実践をお勧めします。
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