今回は、自社の製図スキルの低さに対して非常に憤慨しているという投稿だ。あなたの職場はどう?
「機械設計の業界では図面を軽視しているのか?」
こんな質問をされたとき、あなたはどう答える? 「機械製図は機械設計者にとっては大切な仕事、設計の命。命を軽視するのか!?」といいたくなる方もいるだろうか。あるいは、「そういうわけじゃないけど、できない事情も分かってくれ!」という方もいるだろうか。
今回、『技術の森』の中から紹介するのは、自社の製図スキルの低さに対して非常に憤慨しているという投稿。「A5052」などごく基本的な材料記号が指定できない、一定の機能が要求される個所で公差を指定しない、基準なんてお構いなしで寸法を引いてしまう……。投稿者の職場は、そんな状況だという。
*本記事内の技術の森の投稿内容の転載につきましては、運営元であるエヌシーネットワークの許可を得ています。
「機械設計の業界では図面を軽視しているのか? 当社と比較してください。」
小さな会社で産業機械の設計をしています。
機械設計では図面を軽視しているのでしょうか?
機械に関しては当社の図面しか見たことがないので、他社と比較できなく
わからない点があるのですが、
当社はとにかく図面を軽視しています。
基本的なJISに基づいて描かないです。
相手に伝われば良い。わかれば良い。そんなレベルです。
だから、あまりJISにとらわれず個人個人の好きなやり方で図面を描いています。
確かに相手に伝わるのは大事なことです。
しかし、JISがあるんだからそれを守るのが良いのはないかと思います。
その旨を言ったら、その人からは「関係ないよ。相手に伝われば良いから。」
さらに小生が「ここの指示が抜けていますが」と言ったら、
「指示しなくても、わかるでしょ。だから指示しなくてもいいんだよ。」と開き直りのように言われました。
それって、図面を読む人が変わると読めないのではないか?問い合わせがくるのではないか?と思います。図面は誰が見ても同じ認識がある、つまり共通認識をもつものではないか?と思います。
そもそも、わかるから指示しなくていいというのは、手抜き図面と思います。
そういったことが結構多いのです。
断面指示もありません。自分に都合の良い部分で断面にしてします。
断面の側面図も勝手に描いています。断面の側面図ってあるの?と思いましたがどうなんでしょうか。私はないと認識しています。
公差もありません。公差は図枠の隅に入れるJISの標準公差です。
寸法おのおのに公差はいれないので、よく現場から穴が合わなくて組み付かないと言われます。こんな問題があっても公差は入れようとしません。
(中略)*本文の詳細は、こちらのリンクをご覧ください
材質名も、アルミニウム合金はA5052やA5056などとしません。
Al−P、Al−Bです。
ひどいときはAlです。
これも、図面から形状を見ればアルミニウム合金の何千番台かわかるからいいそうです。
こんな感じなんです。勿論、旧JISのままです。少しずつでも切り替えようとしません。
機械設計という業界では、図面はこんなものなんでしょうか?
図面を軽視しているのでしょうか?
他社もこうというなら、納得するしかありませんが、
私は、当社の人間がただ、手抜きしている、面倒くさがっているだけではないのかと思います。
皆さんの意見をお待ちしています。
ただ、現場からはいつも設計はしっかりした図面を描いてくれ!と言われます。やはり手抜き図面、いい加減な図面と思われているようです。
それに対して設計側は、ささいな部分だし、考えれば直ぐにわかるからいいだろ。という考えです。私は、設計ですが現場の人の考えが正しいと思います。
厳しい意見でも大いに結構です。
真実をしりたいです。
宜しくお願いします。
この質問の投稿があった当時、20近い回答が寄せられた。しかも、1つ1つの回答文が、やたらと長い。投稿者も、長文で返信をしている。
回答がそろそろ佳境となってきたころ……
「そろそろ締めて下さい」(回答15さん)
「なぜいきなりそんなことを言われなければいけないのでしょうか?
もしかして、自分の会社と同じ内容のことが書かれていたので、気分を害されたのでしょうか」(投稿者さん)
回答があふれんばかりになってきて「もうそろそろ、いいだろう?」と思ったのか、投稿者がいうように内容について気分を害したのか、真相は分からない。しかし、このようなやりとりが出てしまうほどに、投稿者も回答者も相当熱くなっていたとみえる。
しかし、これだけ熱く盛り上がったにもかかわらず、投稿者の訴える悩みの抜本的解決になるような回答は、いまだに得られていない。
「・・・なんだか詩みたいになってしまいましたね。これは『"技術"の森』なのに・・・。」(回答9さん)
回答者たちは、投稿者に具体策を提示してあげるというよりは、「自分たちも同じ気持ちです!」と気持ちを共有したかったのかもしれない。最後の回答が投稿され半年以上が経過しているが、この投稿者はいま、どうしているのだろう。
ここで、製図といえばこの人! MONOistの連載でもすでにおなじみ、ちょっと型破りな製図教本『図面ってどない描くねん』(日刊工業新聞社刊)を執筆した技術士(機械部門)の山田 学氏に、この熱源について語ってもらった。
山田氏もこの投稿一連を読んでみて、設計現場の現状に対する失望が感じ取れたという。
まさに、投稿者の職場は「図面ってどない描くねん!」な人であふれ返っている。いや、どない描くねんと尋ねてくれるのなら、まだ救いがあるのかもしれない……。
※「技術の森」内の宇都宮 茂氏執筆のレビューも併せてご覧ください。
機械製図といえば、JIS。この投稿者は、自分の職場の設計者たちがJISの決まりをことごとく守らないことに憤っている様子。
「当社はとにかく図面を軽視しています。
基本的なJISに基づいて描かないです。相手に伝われば良い。わかれば良い。そんなレベルです。
だから、あまりJISにとらわれず個人個人の好きなやり方で図面を描いています。」(投稿者さん)
どの製図の教科書でも、JISに基づいた表記法について明確に説明している。工学系の学校を出て製図を学んできていれば、完ぺきではないまでも、基本の基本ぐらいは分かっているはず。彼らは、本当にすっかりJISを忘れてしまっているのか、分かっていてやっているのか、どちらか分からない(実際に尋ねると、後者だという人は多そう)。しかし個人によりルールがバラバラだとしたら、図面を読む側は、それぞれのクセを解釈しなければいけないということになる。
だがこのコメントに対して、このような回答があった。
「図面とは正確に情報を伝えることを目的とした手段ですので、「JISにのっとっていないからダメ」というのは少し乱暴かな、とも思います。明らかに指示しなくても分かること(たとえば、他の寸法が決まれば自動的に決まるところ)をわざわざ指示すると、全体の整合性が取れなくなるかもしれません。
また、JISは勝手に変更されますので、すべての図面を新JISに合わせて随時切り替えていくことは極めて困難だと思います。「新しい製品の図面は新JISで、既存図面は機会があれば修正」というのが一つのやり方ではないでしょうか?」
(回答1さん)
MONOistの「演習系山田式 機械製図のウソ・ホント」で、山田氏はJIS製図のルールについて演習式で解説してきた。この記事の中では、JISと合っていなければ不正解。この連載は、JISのルールを正確に把握するためが目的なので、正解と不正解を明確にしている。もちろん、ルールに正確であった方が、分かりやすい図面が描ける。
しかし実務においては、JISにガチガチにこだわり過ぎてしまうのも問題だと山田氏はいう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.