質問投稿でも設計でも、どうか「目的を明確に!」「技術の森」モリモリレビュー(2)(3/3 ページ)

» 2009年09月29日 00時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]
前のページへ 1|2|3       

材料選定で陥りがちな問題

國井「例えば、家電やOA機器メーカーでは、鋼板といえば環境対応からクロムフリー鋼板を使います。クロムは防錆の役目でしたが、クロムフリー鋼板は、このクロムの代わりとして、鋼板表面を高分子フィルムで薄く膜を張り、防錆処理をする場合があります。鋼板というと、機械屋さんは、加工性や精度や剛性のことを考えますが、家電やOA機器の構造体でもある鋼板性のフレームは、とても大事なフレームグランド(Frame Ground;接地)の役を成しています。 従って、クロムフリー鋼板では、導通しない、接地できないというトラブルが過去に多発しました。材料の仕様がメーカーによってさまざまなことも1つの要因です。このような情報は、材料メーカーも使用メーカーも、積極的な公表はしません。オープンになりにくいため、書籍では調べられない情報ですね」

宇都宮「材料メーカーの営業に聞いてみるのも手ですよ。彼らも商売ですから、尋ねればいくらでも教えてくれます……利点をね。自然と買わされる方向に誘導されてしまうかもしれませんが。JISの材料規定は結構あいまいです。材料メーカーはそのJISの範囲で、明確にアドバイスをくれます。海外における環境関連の規格の情報も教えてくれます」

國井「さらに、プラスチックの場合は、それぞれのメーカーで日々、新しいものが開発されているので、専門書を作ろうとしても、その勢いに追いつきません」

宇都宮「材料の技術データは、材料メーカーがしっかりと握っていますしね。彼らは徹底的な顧客囲い込み作戦をしていますよ。いかにして、世の中に飛び交う設計図の多くに自社の材料の型番を書かせるかが勝負というわけです。材料メーカーの市場競争は“政治力”がモノをいいます」

國井「メッキについても環境対応で、あれ使うなこれ使うなで大変ですね。特に中小企業がついていけません。ニッケルメッキは大変です。環境配慮で使えないものと、使えるものとがあるようですね 。『そのうち全部使っちゃダメになるんでしょ?』って、ニッケルメッキのすべてをやめちゃったという、そんな話が私のセミナーを受けた方のメーカーでありました。ニッケルメッキを使えなけば、ステンレスを使わなければならなくなりますが、これではコストが2倍、3倍と跳ね上がります」

宇都宮「表面処理もまた、業界専門誌があるくらい深い世界です。表面処理についても専門業者に聞いてしまうのがいいです。そこでもやはり、設計者が、剛性が必要なのか、光沢の有無、色合い、導通、膜厚などしっかり表面処理技術者に指定できないといけませんね」

 繰り返しになるが、設計者は目的をはっきりと専門家に伝え、任せることが肝心だ。

コストと設計者

 下記は、次点の良回答より。

「治具等の設計時には、あまり気に掛けませんが、年間で数万・数十万個の製品設計の場合は材料費が大きく、利益に響きます。

ですので私は、構造・機能的にオーバースペックにならないように材料を選定しています。

ちなみにここで上げたS45Cよりもクロムモリブデン鋼(SCM***)のほうが、材料費は高いです」(回答2さん)

「ありがとうございます。材料費までは考えたことがありませんでした!」(投稿者さん)

國井「日本人の設計者は、最先端の3次元CADや解析ソフトウェアを使っても、その部品のコストの計算まではしないんですよね。実は、『しないではなく、できない』になってしまいました。工業先進国で、設計見積りができないのが、日本人設計者なんです。ですから、CAEでせっかく求めた応力解析も、後で『これは高い部品だ!』といわれて何度もCAEを繰り返しています」

宇都宮「設計者も、せめてアルミ材で丸棒にするのか、板材にするのかぐらいは指示できないと。板材から棒を削るようなことはしたくないものですよね。あとは材料が流通しているかどうかをまず押さえることも非常に大事ですよ。性能もよし、コストもよし……だけど納品が2カ月先だ、ということにもなりかねません」

 部品製作の期間もまたコストの一部だ。自分の望む仕様を満たし、部品製作の見積り額も安いからといっても、部品納品までに時間をたくさん食ってしまえば、元の木阿弥。

宇都宮「材料費って時価なんですよね。鉄の価格も、毎日変動しますし。しかも量産では、毎日材料を購入しますから、購買は価格を把握するのが大変で、常にピリピリしています。合金の場合だと、そこに微量に含まれる金属の価格まで影響してきます。樹脂の場合ですと、例えばPPなら、ナフサや原油の価格も影響しますしね」

 設計者でコスト検討できることはなるべく行い、購買担当をこれ以上ピリピリさせないように努力したいところだ。

投稿からの学び

 投稿やその回答について、徒然と話が弾んだ今回の両氏によるレビュー。そこからは、どんなことが学べたか。最後に簡単にまとめてみた。

  • 投稿する前に、その目的を確認:日ごろの設計業務でも同じことをしていないだろうか。技術の森の投稿でも、設計作業においても、目的を明確にすることを強く!意識しよう。
  • 書籍の情報はあくまで裏付けとし、なるべく人に尋ねる:書籍から知識を吸収することは大事だが、その前に職場にいる先輩や付き合いのある企業の技術者にも設計における実際のところを(尋ねられるなら)尋ねてみよう。材料メーカーの営業も、いろいろ教えてくれるので、うまく付き合おう。
  • プロに任せる:材料や表面処理は、とても奥が深い世界。設計者がすべてを理解するのは不可能なので、プロに任せればよい。ただし目的や要件の優先順位を明確にして、技術者に指示を出し、トレードオフをしよう。
  • 設計者もコストを考えよう:コストを考えるのは購買の仕事だと押し付けず、設計段階でもコスト検討をなるべくやろう。

 今回、「目的を明確にすること」が、取り分け強いキーワードとなった。設計をするとき、それを実際形にするとき、そして技術の森へ投稿するときにも、すべてに通じる。もちろん熟練の技術者・設計者、材料メーカーの営業に尋ねるときも同様だ。

 それを実践するための1つの方法として、國井氏は次のように提案する。「設計者はこの連載の第1回で示した設計のフローに従ってください。そして、設計書を書き始めてください。そうすれば、おのずと技術の森での質問内容も明確になり、ますます、充実した回答をいただけるでしょう!」。

「まさに、いつも説明している『使用目的の明確化』ですよ!」と國井氏

 次回もお楽しみに!

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.