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» 2009年03月24日 00時00分 公開

コンピュータが設計するから、設計者は要らない!?ピタゴラスイッチの計算書を作ろう(6)(3/3 ページ)

[岩淵 正幸/技術士(機械部門),@IT MONOist]
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銀二さんが考える「ものづくりのIT化と人材不足問題」

銀二「とにかくITが発達すれば、開発速度や品質が向上すると考え違いしている経営者は多いよ。特に技術力ではなく営業力で収益を上げているメーカーでは、経営権が営業関係の役員に握られているケースが多い。そういう会社では、例えば総務出身なのに品質最高責任者として品質の最終判断している例さえある」

草太「そうだと、何が問題なの?」

銀二「お客さま第一という視点での判断はできるかもしれないが、技術的な視点での判断は無理だ。結局、自分たちに都合のいいことしか報告してこない、いわゆる取り巻きの技術者に取り込まれて、その結果、長期的には品質劣化を招くことになる」

草太「ふむ……。組織っていうのは、いろいろと悩ましいものなんだね」

銀二「技術戦略においても中長期的な計画より、短期に結果の出やすいものへの投資や表面的な改善に力を入れがちだ。技術者の人材育成にしても、掛け声ばかりで、本当に育成する気はそれほどない。せいぜい通信教育や外部の教育でお茶を濁す程度で、自分たちの力で技術者を育成しようという熱意は薄いように思うな」

草太「それじゃあ、これから就職する僕らも困るよ。どうしてまた、そうなっちゃうんだ」

銀二「試行錯誤で作られた製品を構成している技術に、論理的な根拠を見出すことが困難なため、新入社員に“理(ことわり)”をもって説明することができないのさ。だから一般的な技術知識の再教育の域を出ることはあまりない。さらに、そういう会社の経営者は、『技術は金もうけのための手段である』、そう考えている節があって、本音の部分では人材育成にはあまり熱心ではないようだ。つまり、技術重視といいながら、本音の部分では、軽視している経営者もいるってことだ」

草太「ふーん。メーカーだから技術中心というわけでもないんだね。就職するときには、よく調べる必要があるな」

銀二「そうだ。就職するときには、会社にいる先輩の話をよーく聞いておいた方がいいぞ。さて、話を元に戻そうか」

銀二「普通、製品開発はまったくのゼロから行うことはなく、必ず従来製品の機能アップあるいはコストダウンという形を取る。だから、従来製品についての設計計算書があれば、構成品の何割かはその計算方法で設計できるはずだ。新しく開発する部分については未経験だから計算手法が確立していない。だから、その場合は試行錯誤も仕方ない。しかし、次回の開発を考えるならば、どこかの時点で新しく設計した部分についても理論的な裏付けを獲得しておく必要はある」

草太「なるほど」

銀二「もちろん、当初の設計計算の考え方に誤りがある場合もあるだろう。誤りのない方が少ないかもしれん。しかしその誤りを修正し、それを積み上げていくことで、新しく受け継ぐ人がスムーズに仕事ができるようになっていく。この繰り返しが、技術の発展であり、同時に人材育成につながると私は思っている」

銀二さんの祈り

 銀二叔父さんは、設計の自動化について、ちょっと気掛かりなことがあるようです。

草太「結局、フロントローディングを実現しようと思えば、設計計算書を整備することが重要なんだね。設計計算書を整備することで、その製品や構成ユニットにとって重要な設計パラメータが見えてくるかもしれない。そうなると設計の自動化ということも可能となって、本当の意味でのフロントローディングが実現される」

銀二「確かにそうだが……設計の自動化の実現って、ちょっと複雑な気分だな」

草太「なぜ? 作業が自動になるのって、とても便利じゃない」

銀二「今回のピタゴラスイッチの設計で分かったと思うけど、設計の醍醐味(だいごみ)というのは、自分の計画したどおりの機能が実現することだ。そのとき、いままでの苦労が快感に変わる。もしコンピュータが、設計を全部完ぺきにやってしまったら、設計者や技術者は要らなくなるし、完成したときの快感が味わえなくならないか?」

草太「確かに、そうだね」

銀二「最近は何でも価値を金額で測る風潮があるが、仕事をする喜びや快感は金額で測ることはできないだろう? さらに『企業は株主のためにあって従業員は経営のための資源にすぎない』なんていっている経営者も増えているのも気になるな。『技術者も、石油や鉄と同じ“資源”である』という発想の根幹には、人間軽視の使い捨て思想とも取れるように思う。現場の技術者にとっても便利なはずの自動化が、金もうけだけしか考えない人たちの道具とならないことを心から願うよ!」

 「人間は考える葦(あし)である」といったのは、フランスの数学者であり哲学者でもあるパスカルです。人間は、大自然から見れば池に群生する葦程度の小さく弱い生き物ですが、自分が弱者であることを認識できるという点において崇高であり、人間の尊厳はその「思考」の中にあると主張しています。

 蒸気機関が発明され、産業革命が起こり、機械化によりいろいろな作業が自動化されてきました。経済的視点でとらえれば、人間に作業させるより機械の方が速くてコストが安い、というのが機械化、自動化促進の理由でしょう。しかし、「人間は考える葦である」という視点でとらえれば、人間は単純作業をするために生まれてきたのではなく、「考える」仕事をするために生まれてきたのであって、あらゆる自動化は、人々を単純作業から解放し、より創造的な仕事をするために進化してきたともいえます。

 それぞれの職場で自動化を促進させてきた技術者は、人を捨てるための自動化でなく、人を生かすための自動化でありたいと思って頑張ってきたのではないでしょうか。

草太「うーむ。ずいぶん深い話だね。“これからの技術者はどう生きるべきか?” なんか、就職するのが嫌になっちゃうよ」

銀二「まあ、そういうなよ。そういえば、お前はどこに就職するんだ?」

草太「実は大学院に行くことに決めたんだ。合格通知ももらってる」

銀二「そうか。それはおめでとう。では最後にお祝いの言葉を送ろう」

仕事を選択するとき、何が一番大事か。

人それぞれだけど、私の経験に照らしていわせてもらえば、決してお金ではないな。お金は人を幸せにするツールであって目的ではない。

「人はパンのみに生きるにあらず」っていうだろ。

だから、草太もお金目的で仕事を選ぶのはやめた方がいいな。

大事なのは、草太が何をやりたいかってことだ! 何をして生きていくのが幸せかってことだ!


Profile

岩淵正幸(いわぶち まさゆき)

1953年生。技術士(機械部門)。日本セメント(現太平洋セメント)、川崎重工業精機事業部(現カワサキプレシジョンマシナリ)を経て、現在事務処理機器メーカーでシミュレーションを活用した設計方法の開発および設計コンサルティング業務を担当。川崎重工では、油圧制御システム設計、旧石油公団(現石油天然ガス・金属鉱物資源機構)委託研究による圧力波通信システムの開発研究、対戦車用ミサイル操舵装置の開発に従事。



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