設計したどおりの機能が実現すればスコーン! と快感。しかしコンピュータにすべてを任せたら、それも味わえなくなるかも。
いよいよ最後の総合検証試験です。前回まで、ピタゴラスイッチを5つのサブ・システムに分解して設計をしてきました。各回、サブ・システムごとの検証試験を実施して各設計に問題ないことが確認されています。果たして、すべてのサブ・システムをつないで実験した場合でも要求仕様を満足させることができるでしょうか。
草太「ついに、最後の検証試験か」
銀二「“終わり良ければすべて良し”っていうけど、反対に“終わり悪ければすべてが台無し”になるから注意しなけりゃいかんよ」
図のようなピタゴラスイッチを設計・製作し、設計計算書と試作品を提出せよ。
A地点から出発したボールは曲線スロープを経てB地点に到達し、直線スロープ1の終端のゲートを通過した後、直線スロープ2に繋留(けいりゅう)している台車のロックを解除する。
繋留が解除された台車は直線スロープ2を降り、ストッパによって横転し、台車の中のボールがシーソーに落下して、反対側のバスケットボールを跳ね上げ、バスケットの中に入るものとする。
なお、曲線スロープの出発地点Aの高さHとスロープの底の高さHb、曲線スロープの長さLは図示した値とし、また、B地点を通過するときのボールは極力遅くなるように設計すること。
草太「最後の詰めが甘いといままでの苦労が泡となって消えてしまう」
銀二「本当に重要なのは結果に至るまでのプロセスなんだけど、誰でも他人の行ったプロセスを理解するのは面倒だし、難しい。結局、人は、結果しか見ていない」
草太「分かったよ。じゃあ、そろそろ最後の検証試験に入ろうよ」
そういうと草太は、いままで作ったサブ・システム1から5までを組み立て始めました。
草太「じゃあ、いくよ!」
草太はスーパーボールを曲線スロープの出発点に置いて離しました。
草太「あらららら〜。曲線スロープから直線スロープ1へ、うまくボールが渡らない!」
銀二「やっぱりな」
草太「えっ? どういうこと?」
銀二「フレキシブルなカーテンレールを曲線スロープとしているのはいいけど、カーテンレールの取り付け金具をビス留めしている板は、4個のアングルの脚を付けて、そのまま床の上置いているだけだろ? しかも、100円ショップで買ったアングルの角度は直角がきちんと出ていないから、脚は床にきちっと接触していない。だから、ボールがスロープを通過するときに、板全体が揺れてボールがスロープの軌道から外れて外に落ちてしまうんだ」
草太「サブ・システム1の固定が甘いってことか」
銀二「そういうことだ」
草太「やっぱり詰めが肝心ってわけだね」
銀二「そのとおりだ!」
草太はシャコマンで脚をクランプしました。
草太「さあっ! これでどうだ」
再び、草太はボールを曲線スロープの出発点に置いて離しました。
銀二「やっぱり駄目だな。ボールが曲線スロープから飛び出してしまうな。スーパーボールの径がカーテンレールの溝幅より大きいから、ボールはカーテンレールの溝にはまって転がるんじゃなくて、溝壁の上を転がってしまうんだね(図1)。ということは、カーテンレールの溝壁がうねっているんじゃないのかい? 曲線スロープ(カーテンレール)の組み立てをもう少し、きっちりやった方がいいな」
草太「カーテンレールのクランプの数が足りないのかな? ちょっとひとっ走りして買ってくるよ」
草太は近所の100円ショップへ行って、カーテンレールの取り付け金具を買いにいきました。曲線スロープのクランプ数を増やしてきっちりクランプすることにしたのです。
草太「さあ、今度はどうだ!」
銀二「よーし! 今度はうまくいったな」
草太「何回やっても、バスケットにボールがスコーン! と入るよ。これでピタゴラスイッチは完成したね。後は設計計算書を書けば卒業設計の課題は終了だ!」
銀二「設計計算書については、いままでやってきたことをまとめればできるな。念のため、シミュレーションでもバスケットにボールがスコーン! と入るか確認しておこうか?」
銀二と草太はいままでサブ・システムごとに作っておいたモデルをコピーして、新たに全体システムのシミュレーションモデルを作成し、思惑通りうまくボールがスコーン! とバスケットに入るのを確認しました。
銀二「いいね。バッチグーやね」
草太「シミュレーション結果を付けておけば、担当教官のS評価間違いないね」
銀二「そうかな? シミュレーションをしたから高い評価? それはちょっと違うな」
設計実務の世界には、シミュレーションがうまくできること以上に、大事なことがありますね?
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