欧米のこだわり系ものづくりと3次元活用メカ設計 イベントレポート(6)(1/2 ページ)

作業を効率化してコストダウンを図りたい。だがものづくりへのこだわりは捨てたくない! そんな技術者の願いを実現するのが3次元設計だ

» 2009年01月21日 00時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]

 今回のレポートでは、欧米における設計・製造事情を覗いてみよう。作業を合理的にしたいけれど、ものづくりへの強いこだわりは捨てたくない! そんな心意気は日本も欧米も同じだろう。

 2009年1月14〜15日、PTCは米国マサチューセッツ州ボストンで、プレス向けイベントの「PTC Annual Global Media & Analyst Event」を開催した。本イベントのユーザーセッションは、部品サプライヤやコアな分野の企業によるものが中心だった。今回はそのうち2つのユーザーセッションの内容をピックアップして紹介する。

 今回紹介する2社は、こだわりのものづくりを追求しながらも、3次元モデルを評価・検証、生産との連携などに積極的に活用し、成果も出している。動的解析やPLMなど、現状よりワンステップ先のシステムへも意欲を見せている。

セクシーで精密なものづくり

 「60人ほどの従業員の小さな会社で、非常にリラックスした雰囲気で仕事をしています。ほかの自転車(バイク)メーカーとはだいぶ違う雰囲気だと思います」とサンタクルーズ バイシクル(Santa Cruz Bicycles:以下、サンタクルーズ) エンジニアリング ディレクター ジョー・グラニー(Joe Graney)氏は自社を紹介した。リラックスした雰囲気といえども、マウンテンバイクの設計では緊張感も忘れない。マウンテンバイクは過酷なレースで戦う。その機構設計で失敗をすれば、ユーザーが首の骨を折ってしまうなどの重大な事故へとつながりかねないという。

サンタクルーズ バイシクル エンジニアリング ディレクター ジョー・グラニー(Joe Graney)氏

 サンタクルーズは、米国 カリフォルニア州にある自転車メーカーである。生産は台湾と中国で行っている。3次元CADやCAE、CAMを連携させ活用し、マウンテンバイクの要求精度を効率よく満たしていく。その甲斐(かい)あってか、同社のマウンテンバイクは、2008年中にて数々のレース(ワールドカップ)で高順位をマークしたという。

 レースシーズンである2月から5月がマウンテンバイクの市場投入シーズンである。ここのシーズンを逃すと、(逃さなかった場合と比べて)5割は売上げが落ちるという。そのうえ製品サイクルが36カ月と短い。よって、的確で素早い設計が肝となる。

 マウンテンバイクの部品の金型費は高く、設計変更には長いリードタイムがかかる。さらにユーザーの要求は非常に厳しいという。軽量化しながら耐久性を犠牲にすることなく、激しいレースにおける効率の良い運転を実現させなければならない。

像1 サンタクルーズのマウンテンバイク「V-10」のフロント部

 「マウンテンバイクはセクシーでないとユーザーに受けません。われわれもまた、つまらない製品を作りたくないのです」とジョー・グラニー氏は話した。同社のマウンテンバイクの設計者は剛性や重量などの技術要件にこだわりながらも、意匠的(ファッションへの)なこだわりも忘れないという。だからフレーム形状は複雑な曲面で作られる。

 従来、同社のマウンテンバイクは紙上やExcelで技術計算を行ってきた。ショックアブソーバのリンク設計はデリケートで、少しでも計算が狂えば性能が不安定になる。それはユーザーの事故につながることもある。しかし紙上やExcelで計算精度を出すには限界があった。そこで2次元CADを導入したという。そのデータは解析にも利用した。

画像2 2次元CADによるフレーム設計

 サンタクルーズが設計するマウンテンバイクはフルサスペンションと呼ばれる、前後にサスペンションを配置したモデルである。その機構はオートバイよりも複雑であるとグラニー氏はいう。また同社は2001年にVPPというリンク機構を制御するサスペンションの特許を取得した。これを機に、機構はより複雑になっていき、2次元CADでの設計が厳しくなってきた。

 そこで同社は2001年から3次元CADを導入し、複雑な機構の検討をしやすくしたという。機構解析や力学解析ができること、複雑なサーフェスが作成できることなどもCAD選定における大事な条件だった。意匠デザインも従来、紙や画像で行われてきたが、これもやりづらいものだったという。また3次元CADを導入したことで、3次元サーフェスによって意匠を直感的にデザインできるようになったという。 また3次元CADからNCプログラムを取り出すことも行っている。

画像3 3次元モデルによるフレームの力学解析

 上記により、マウンテンバイクの設計にしっかりこだわりながらも、その設計期間は、従来の22カ月から14カ月に減り、保証クレームも従来の70パーセントまで減ったという。

 サンタクルーズは、カーボンフレームを2機種リリースする予定だという。そのモデルでは、従来機種より40パーセントの重量削減が図れるという。このような、ギリギリまで追い込む軽量化もまた、3次元モデルがあってこそだといえる。

画像4 フレームの試作品

 またこれからはPLMにも積極的に取り組み、業務の無駄を省いていきたいという。「台湾や中国には、英語が通じるスタッフが少ないのです。現在は、生産拠点向けにマニュアルを作ってコミュニケーションのギャップをフォローしています」(グラニー氏)。PLMを利用し、アジアの生産拠点のスタッフと米国の設計スタッフとの間のコミュニケーションをより円滑にしたいとのことだ。

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